名作選6「妹へ」
子どもの頃に毎月買っていた少女マンガ雑誌。付録が楽しみだったのもあるけれど、胸キュンの恋愛青春マンガにはまっていた。まだ恋とはなんぞやのその時期に、マンガの中の男の子に恋をしていた。
少女マンガに出てくる男の子はとにかくかっこいい。そして、スマートなやさしさで読者を魅了する。
あるとき、同級生の家に遊びに行ったときのこと。小学校のクラスの女子数人が集まり、マンガ談義をしていた。どのマンガのどの男の子がかっこいい、あのヒロインみたいになりたいなど、その頃の歳ならではの他愛もない会話が永遠と続く。
コンコン
友達の部屋の扉がノックされ、誰かがにゅっと顔を出した。
「お兄ちゃんちょっと出かけてくるけど、玄関の鍵しめておけよ。」
バタンと扉が閉じられた瞬間に、そこにいた女子がざわめき出す。
「きゃーーーーーー!誰?今の誰?」
友人の歳の離れたお兄さんだったのだが、小学生女子にはマンガの中の憧れの男子に見えた。聞くと、歳が離れているせいかとにかく妹に優しいということが分かった。兄と妹。憧れのきょうだいだった。
仲のいい兄から、こう伝えられたら妹はどう思うのだろうか。おめでとうの前に少しながら心がざわつくような気がする。
妹の立場でつい読んでしまうと、胸がギュッと縮みこむ。そこに自分がいないということが浮かび上がってしまう。みんなが笑っているそのときに、自分の存在がなかったことになっているような気がしてしまう。
そして、最後にこう締めている。
あぁ、お見通しだ。お兄ちゃんのことを大好きな妹の気持ちを、ちゃんと分かってくれているんだ、と安堵する。
小学生時代に友人の兄妹の関係に憧れていたのは、まぎれもなくそこに家族の愛を感じていたからだと、今になって分かる。お互いを思いやり合って、言葉ひとつかけるのにも惜しみない愛を与え合っているのを感じたから憧れたのだ。
この作品の中の家族は、亡くなった妹さんの存在を忘れてなどいない。それどころか、みんなで談笑しているその話の中にも妹さんのエピソードが登場しているのだ、きっと。
大切な大切な家族の中心にいた妹を亡くした兄と両親は、その悲しみを抱えて生きている。悲しみはゆっくりとどこもまでも深い愛に変化していく。ありがとう。これからも大好きだよ。そんな声が聞こえる。
このブログでは、「あの人との、ひとり言」コンクールの入賞作品の中からランダムにチョイスした名作たちを紹介して参ります。作者の心情に寄り添ったり、自分もこういうことがあったなと思い出を探してみたり、コンクール応募のきっかけにもなれば幸いです。
ステキな作品に、どうぞ出会ってください。
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