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【読書日記】5/20 人生いろいろ。「花の幻想/グランヴィル」

花の幻想
グランヴィル,J.J.【画】〈Grandville,J.J.〉
ドロール,タクシル【著】〈Delord,Taxile〉
谷川 かおる【訳】
八坂書房

 今日は、もう真夏といえるような暑さでしたが、花々の美しく咲き競う季節です。
 そんな花の姿を捨てて、人間界に身を投じた花たちの物語。
 19世紀のフランスの挿絵画家・グランヴィルが描いた絵に親友のドロールが物語を添えました。

 ある日、人間の世界に憧れた花たちが妖精に反旗をひるがえし、人の姿を得て「妖精のもと、あらゆる国、あらゆる風土に咲く花が一緒に暮らしていた庭」を出て人間界へと出ていきます。

主である花の妖精が結構怖いところが、本書のポイント。
「庭から花たちが出ていく許しを与えましたが、心のうちでは花たちに復讐をしてやろうと誓わずにはいられませんでした。」

恵まれ、守られていることに無自覚な花たちにいら立ちを覚えるあたり、妙に人間臭いなあ、と思います。
そして、この呪いが人間に姿を変えた花たちの運命に影を落とすのです。

お茶の花とコーヒーの花
どちらが優れているかで論争を繰り広げて法廷闘争までおこす。そして、今もその決着がついていない、ということ。
お茶の花の東洋風の面差しと衣装が素敵です。

お茶会をしながら火花を散らすお茶とコーヒー

ふたりの羊飼いの娘とフランス王妃の物語
 村の評判の美人、ヤグルマソウとヒナゲシ。村の若者と恋仲になりますが、代官らに無理やり結婚させられそうになります。そこを救ったのはかつての仲間白百合。今はフランス王妃になっています。
 助けられたヤグルマソウとヒナゲシが村に戻ってみると・・・。

村娘のヤグルマソウとヒナゲシ。王妃となった白百合。

薔薇の年代記
人々の賞賛を浴び、そしてその移ろいをなげく薔薇。薔薇と人の古代ローマから19世紀までの毀誉褒貶の歴史を描く。

薔薇。崇拝者には事欠かない。

トルコ皇帝の寵姫となったチューリピア。
公爵と公証人の書記に言い寄られたアザミ。
それぞれの恋の顛末は・・・

アザミとチューリップ

人の世の喜び、哀しみ、苦しみを知った花たちは、「妖精の庭」に帰ることを考え始めます。
青い鳥に導かれて帰還した花々に花の妖精は、何を告げるのか。

フィナーレ。

ご紹介しきれなかったのですが、擬人化された花たちの挿絵が美しいです。衣装や調度品、女性たちの表情など、前世(花時代)の雰囲気がよく出ています。
これらの絵を眺めながら自分なりの物語をこしらえるのもまた一興です。
そして、この本を読んで、今、咲き乱れる花々をみてみるとイメージがさらに膨らみ、散歩も楽しくなります。