【読書日記】1/17 図書館で考えた。『コブタをかぞえてⅠからMM /アーサー・ガイサート』

コブタをかぞえてⅠからMM
アーサー・ガイサート (作),久美 沙織 (訳) BL出版

 仕事で訪れた町で素敵図書館に寄りました。
 自治体が気合を入れて建設する町づくりの目玉施設。格好良い建築で蔵書も豊富でおしゃれなカフェなども併設されている。雑誌などでも特集が組まれるうっとりするような素敵図書館。
大好きな場所です。出来ることなら素敵図書館を訪ねるだけの旅をしたいくらい。

 でも、あえて今日は別の話。
 素敵図書館を見ていたら、この絵本を引っ張り出したくなったから。
 ローマ数字の絵本です。
 ローマ数字、実用書の章立てでよく見かけます。なのでⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴくらいまでは余裕。Ⅷだと、縦棒の数が老眼には判別しにくくなり、Ⅸとなるとこれはなんだったかな?になってしまいます。
このローマ数字のルール(7つの文字、Ⅰ、Ⅴ、Ⅹ、L、C、D、Mを組み合わせる)を子豚の数と合わせて説明している本です。
 子豚がⅠ匹、子豚がⅡ匹、子豚がL(50)匹・・・子豚がMM(2000)匹。ずらーっとこぶたこぶたこぶた・・・。いちめんのこぶた。数えた人いるのかしら?

 なぜ、この絵本を思い出したのか。
 10年以上前になりますが、出張のついでに訪れたある町の図書館で、算数が苦手な子供たち向けに数字を楽しもう!という企画展をやっていました。
 他には安野光雅さんの本や算数クイズの本、1粒の米の昔話(一日目は一粒、二日目は二粒、三日目は4粒・・・)などがあったように記憶しています。
その中でこの絵本も紹介されていて、気に入ったので家に帰ってから買いました。

 そこは、過疎化した地方の町の小さな図書室でした。
 他の行政系の事務所と同居していて、入り口からぐるっと見渡せるくらいのこじんまりとした部屋。蔵書の数も少なくとも開架状況を見る限り潤沢とは思えませんでした。
 でも、担当者の方々の尽力でしょう、居心地の良い雰囲気でゆったり本を読めそうな設えに、地域や季節に配慮した特集コーナーや本を紹介するポスター掲示、読み聞かせイベントの実施など、本との出会いを楽しめる場所であることが十分に伝わってきました。
 私がこの近くの子供だったら入り浸るなあ、と思いつつ、逆に、ここが無ければ、この地域の人たちが本に出合う場所がほぼないことにも気付き、愕然としたものです。
 町の本屋さんは廃業がすすみ、その地域にも本屋さんは車で30分近くかかるところにしかありません。車で気軽に外出できる人はともかく、子供やお年寄りは?
 電子書籍を読めばよい?(訪問時は、電子書籍は今ほど普及していなかったけれど)
 それも一つの手段ですし、ないよりはマシです。
 しかし、書架の間を巡り、目に付いた本を開いてみる、そのきっかけは題名の言葉かもしれないし、装丁かもしれない、その体験は子供の大事な糧のはずです。
 また、お年寄りも気軽に手に取れる本だからこそ読もうという気になるでしょう(目が衰えてくると電子書籍は辛い)。散歩がてらに図書室に来て、本を読む、健康寿命にも良い効果があると思います。
 だからこそ、こういう地方図書館にはしっかりとした運営が出来るような政策が必要。
 人々の、特に子供たちの読書環境を向上させるには、素敵図書館が県内のどこかに一か所あるだけでは用が足りない。
 地元の人が気軽に通える距離にある図書館(室)を充実させることが大事。ですが、自治体の財政状態はどこも厳しい。多分、数多の政策の中で図書館の運営の優先度はあまり高くない。限りある資源の中で「買い物弱者」「医療弱者」対策が「読書弱者」対策に優先しても仕方がない。住民自身も、本なんかより他にやるべきことがあるだろう、というかもしれない。

 でも、ふと考えてしまうのです。
 膨大な予算をつけて子供達一人一人にタブレットを配ったけれど、我が子のクラスの現状を聞くと、こっそりゲームに使っていたり、メッセージのやりとりでトラブルのもとになっていたりで、今のところあまり有意義に見えない(調べ学習の発表に使っているのは見たけれど。これからに期待?)。
 その何十分の一でも学校図書室&地域図書館の充実に充てられれば、その方がよっぽど学力向上・創造力向上につながるのに、無いない尽くしの中で地域の図書館の運営に取り組む人たちの待遇改善や資質向上が可能となるのに、と。

 図書館については「無料貸本屋批判」もあって、それは重要な課題ではあるけれど、そもそも本を手に取る場所が図書室しかない地域があることもまた事実。
 前に訪れたような図書室が日本の津々浦々で運営されていれば、日本の活字文化の未来は明るい、そう思うのです。

 コブタを数えて、そんなことを考えました。