【詩歌の栞】3/6 啓蟄の日に。「動物詩集/室生犀星」他
日に日に春らしさの増す三月の初め、今日は啓蟄です。
室生犀星の「動物詩集」は、冒頭の序詩に続いて春夏秋冬の生き物を詠んだ詩集です。
「動物詩集」というと、勝手にほ乳類を思い浮かべますが、虫や魚、鳥など小さな、身近にいる生き物が取り上げられています。
春は、虻、蝶、鶯、蚊とんぼ、うじ、蜂、蛤、田螺などなど
小さな生き物たちへのやさしい眼差しを感じます。
春は虫も人も変わる季節。皆々蝶となって舞い上がれ!
かわいらしく微笑ましい。アサリのお味噌汁が食べにくくなりそうです。
「生きものいのちをとるな」
この詩集は1943年の作ということを合わせて考えると、その言葉に込められた思いはより深い気がします。
来年度の予算編成案、少子化対策と同時に反撃能力配備の議論が進む。産めよ増やせよ、そして戦え、のデジャヴュ。
「生きものをかなしがらすな」
さて、啓蟄、で思い出すのは、こどもがカブトムシを飼っていたころのことです。
冬の終わりと春の初めの狭間の季節。夜な夜な廊下の片隅からかさこそ、ずぞずぞ、というなんともいえない音がするようになります。夏の終わりに生まれた幼虫たちが冬眠から覚めて土を食べ進みながらぶっとりと肥え太っていく音なのです。
ああ、これが「地虫出づ」か、春だなあ、とまだ寒い夜更けにしみじみ実感したものです。
これから、生き物たちの動きも活発になってきます。
そして、子どもたちも進級の節目を迎えます
「蟻出でておもひおもひの道選ぶ」福永耕二
なまじ我が子だと、つい「こうしてほしい。こうあるべきだ」と親の理想を要求してしまいがちです。子供なりの「思い思いの道」を元気に伸び伸びと歩かせる度量も大事、と思い出させてくれる句なのです。
仕事帰りに見上げた空に限りなく満月に近い月がありました。
生き物たちを暖かく見守る穏やかな光。自分もそうありたい、と願う夜です。