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魔女はお城で暮らしてる 映画感想文「シャーリイ」


 前にも書いたように2024年は月に一度は映画館に行ってnoteに感想を書こうが目標なので、そうでもなければこの映画の存在も知らずに過ごしていたと思う。
 6月はルックバックと決めていたし、じゃあ7月は何にしようかなと映画情報をチェックしていて、えっ!?と思った。
 この映画のシャーリィ・ジャクスンって、「ずっとお城で暮らしてる」の作者じゃん!?と。

 その小説を私が読んだのは去年のこと。
 よく行く本屋さんで店員さんの手書きポップ付きで紹介されており、自分好みな予感がして購入したのだ。結果は大当たりで、ものすごく好みの内容だった。
 元々閉鎖的な田舎の環境、周囲から疎外される姉妹の愛と狂気、どこからどこまでが夢か現実か分からない描写、そしてさらに閉ざされていく姉妹の関係性。
 店員さんに感謝すると同時に、この本の作者の精神状態が気になった。
 人間が嫌いな人が書いた本だなあと思ったからだ。

 そんな本の作者を題材にした映画。
 7月はこれにしようと決めて、「くじ」が収録された短編集も予習として読んだ。

 雑誌掲載後に今でいう炎上状態になったらしい短編「くじ」は、広場に集まった村人たちが、何かを決めるためのくじ引きを行う話だ。
 何のためのくじなのかはなかなか明かされないが、不穏な空気が常に漂い、読んでいて不安な気持ちになる。
 なんかこの人悪目立ちしてない?と思う人が案の定くじで選ばれるし、最終的に悲惨な目に遭う。しかもその人が叫んでいるように、どうもくじからは公平ではない、作為的な印象を受ける。
 どこまで計算された結末だったのか、何故この村ではこのようなことが行われているのか、考えずにはいられない作品だった。

 映画「シャーリイ」も同じだ。
 どこまでシャーリイが計算していたのか。何故このようなことを行ったのか、考えずにはいられない。

今年2回目のセンチュリーシネマ


 若夫婦が家に招かれる以前から、スランプだったのは事実だろう。
 ローズと接している内に、失踪した女学生ポーラついてインスピレーションを得たのも。
 しかし、ポーラが会っていた相手が自分の夫だと気がついたのは、いつだったのか。本当は最初から分かっていたから題材に選んだのか。
 ローズに自分の考えを話すように誘導し、ローズが「教授」と口にした時点では、すでに気づいていたように思う。

 最初は不穏な空気だったシャーリイとローズが徐々に協力体制を築き、キノコを分け合うシーンからエロティックな関係へと移り変わっていくのは見応えがあった。
 あの辺りの二人の空気がずっと続いてくれればと思ったが、そうはならなかったのが悲しい。
 シャーリイはローズにポーラの追体験をさせて、小説の結末に導いてもらうのが目的だったのだろうと思う。

 夫のスタンリーにポーラを小説の題材にするのを批判された際、彼女を題材にしたのは存在を気にしてもらえない孤独な大学生がいっぱいいるからだと叫んだのは、シャーリイの本心だと思う。
 シャーリイは自分が作家としての成果を上げられず、夫に見放されれば、自分は誰にも気にかけてもらえない孤独死する存在になるのだということを自覚し、本当はとても怯えている。
 ずっと引きこもっていた家からローズに支えられて何とか車に乗り込み、ようやく辿り着いたお店の試着室で服が入らなくて泣いているシーンも、パーティで夫の浮気相手を脅した後、床に這いつくばっているシーンも切なかった。
 彼女の孤独と不自由にローズが寄り添ってくれて良かったと本当に思ったから、ずっとこの関係が続いてくれればいいと思ったのだ。

 ラストシーンはローズを利用して書き上げた小説を、夫であるスタンリーに読んでもらい、才能ある妻と称賛されて喜ぶシャーリイからの、夫婦のダンス。
 幸福を装った不気味さがそこにはあり、シャーリイの作品たちと同じく不穏なラストだった。

 シャーリイは若いローズを手玉に取って利用するだけ利用したとも取れるが、私は利用されたローズより、シャーリイの方が可哀想だなと感じてしまった。
 夫の浮気を知り、産まれたばかりの赤ん坊を抱えたローズは、すでに元の生活に戻るつもりはない。引っ越し先で遅かれ早かれ二人は離婚するだろうし、ローズは若くて美しく、料理上手で読書好き。彼女が望めばきっと、新たな男性との出会いもあるのだろう。
 しかし精神的に夫のスタンリーに支配されているシャーリイは、彼から離れられない。
 夫の不倫を受け入れるという恥辱に耐え、老いていく体を抱え、ローズも去り、これからも孤独にお城で暮らす。
 シャーリイを魔女だと呼ぶのなら、才能ある作家である彼女を支配し、さらには他の女性とも関係を持ち続ける夫のスタンリーは、何と呼ばれるべき存在なのだろう?

 シャーリイが書いた「くじ」が収録された短編集には、「魔性の恋人」という話がある。
 ある女性が結婚の約束をした恋人ジェイミーことジェームズ・ハリスを待っているが、当日に現れず姿を消してしまうという話だ。
 この男性は短編集内の他の作品にも度々登場し、周囲の人間の心をざわつかせる振る舞いをする、悪魔的な人物として描かれている。
 私は夫のスタンリーの言動を見て、このキャラクターのことを思い出していた。
 実際のシャーリイには4人の子どもがいたそうだし、スタンリーも映画のままの人だったわけではないのだろうけど。

 あたしたち、とっても幸せね。
 「ずっとお城で暮らしてる」のメリキャットは、最後にそう口にする。
 夫とダンスするラストシーンのシャーリイも、そう呟いていたのだろうか?

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