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ゴールドトレジャー、疝痛の正体は…。父ゴールドシップが降臨したその日

到着した頃には、辺りは真っ暗になっていた。

暗闇の中に、明るい厩舎の灯りがポッカリと浮かんでいる。
トレジャーの姿はない。

「はっ。どこ行ったんじゃろ?おらん。トレジャーがおらんよー。どこ?どこ?トレジャー。トレジャー!!。」

嫌な予感がよぎり、泣きながらトレジャーの姿を探した。

「まさか…。間に合わんかった…。」

ある場面がフラッシュバックした。

脳みそが震えた様な気がした。

そこは火葬場。
目の前には泣いている父がいた。従姉妹がいた。
その前にはお骨があった。
幼い私は、泣いている皆を不思議な気持ちで、
「なんで、みんな泣いているだろう?」
と思った。

「ああっ…。じいちゃん。おじいちゃん!!」

不思議な事に、43年もの間忘れていた記憶が蘇ってきた。
思い出した唯一の記憶の祖父は、骨でありました。

「トレジャー!!トレジャー!!」
私は夢中で厩舎の中に入りました
すると…。



私の姿を確認すると、馬房の中でスキップを始めたトレジャーがいた。

「待ってました!!こんばんは!!人参とりんごは持って来られましたか?」

と言わんばかりの猛アピールであった。

「トレジャー!!大丈夫なんじゃね。もう…もう…お母ちゃんは…あれっ?お腹は?お腹は痛くないん?」

何か処置してもらって落ち着いたんかな?
元気そうに見えるけど、まだ痛みが残っているのかな?

オロオロと状況が飲み込めずいると、オーナーの奥様が厩舎に入って来られ、説明を始められた。

「もう大騒動でして、あんなに馬が痛がる姿を見た事がなくて…。」

どうやら、倒れ込み、地面のたうち回り、
「グォー!!グェー!!」
みたいな声を出していたらしい。

先生方みんなが集まり、手当に励み、心配する姿を確認すると、ムクッと起き上がり、トコトコと歩いて自分の部屋に戻ったらしい。

その後、ご飯を大変に催促したという…。

獣医さんが来られて、診察をして頂いた結果…。

「異常ありません。」

なんと、仮病であった…。

その頭脳と立ち振る舞いに、その場にいた皆が驚愕し、笑ったという。


奥様は、
「この子は、自分を馬だと思っていないんだと思います。本当に賢いです。私、こういうお馬さんを初めて見ました。笑笑 」

「はっ!!ゴールドシップ…。」

全てはこの名前が頭によぎった瞬間に、納得した。


藍姫が来てから、様子がおかしかったトレジャー。

他の新入りのお馬さんには、見向きもしなかったのに、藍姫への意識の仕方がおかしかった…。

私は気になってトレジャーの前では、藍姫には触らない様にしていたのに、そういう問題ではなかった。

トレジャーはオンリーワンでなければならなかった…。

この日、私は試されたのだ。
慌てて駆けつけるかどうか…。

可愛らしく首を傾げるトレジャー。
「くださーい!!」

トレジャー以外の馬は皆食事中だった…。
その日のトレジャーの、私に会った喜び様は凄まじく、
雄叫びを上げていた。


「トレジャー、良かった…。何事もなくて本当に良かった。お母ちゃんは、生きた心地がせんかった…。あんた、偉かったね。偉かったね。」

とヨシヨシしようとしたら、


噛まれた…。
甘噛みでも、結構痛い。

人参を持っていないに気がついたらしい…。

そして万が一のために、その晩トレジャーは食事が中止となり、

「えっ?こんな筈では…。」
という表情。

ライバルの藍姫は美味しく食事中。

次回から腹痛の仮病は決して使わないだろうな、
と言う事だけは確信した。


最近思う事は、トレジャーは完全に私を下に見ていて、
「自分の事をすごく好きな人。」
「美味しい物をたくさんくれる人。」
「なんか、一緒について行ったら、いい所に来れた…。」
位にしか思っていない。

それで良い。
その幸せの物差しは、私ではなくて、トレジャーが幸せかどうかで測られる。
私は、自分のためにではなく、トレジャーのために頑張ったのだから。


大人しく美人な藍姫は、妹、ゴールドミルクの登場に、新しい顔を見せる様になった。

従わないミルクに腹をたて、馬房の扉を飛び蹴りし、扉を一発で曲げた…。

放牧時にも拘りがある様で、ミルクを先に出すと、
美しい顔を豹変させて怒る。

他のお馬さんでは気にならなくても、何でもミルクより先でないと、プンプン怒るのである。

ゴールドミルク 外で見るとやっぱり小さい


人参も、顔を伸ばしてミルクのを横取りしようとする。
サッと引っ込むミーちゃん。
それを、ジーッと見ているトレジャー。

「その人参は全部ワシのモンじゃ。」


その他の仔は、「ちょーだい」アピールはするが、うちの二頭だけは、ミーちゃんを間に挟み、人参争奪が熾烈を極めているのであった。

ポーッと外を見るミーちゃん。

この仔が一番おっとりしているが、明日は分からぬ。 
何故ならこの二頭は、ミーの血を分けた兄姉なのだから…。

放牧大好き、藍姫

こんな一面を持つ、うちの馬社員ですが、良いお仕事をしてくれる。

ふれあい事には、介助の職員の他に、私は利用者さんの後ろに立ち、人参を持って立っている。
すると、

「はっ!!その手に持っている物は…。」

途端にいい子になり、ピタッと大人しくなる古株上司となった営業部長のゴールドトレジャー。

藍ちゃんも最近、同様になってきただ。藍ちゃんは、天真爛漫。

1番の優等生はミーちゃん。

小さな身体のミーちゃんは、どんなに小さいのだろう…。とドキドキしていましたが、


「意外にデカかった…。」
が感想だった。笑


胴が短いので、放牧の際には分かるが、顔の大きさは兄姉と同じなので、藍ちゃんも並ぶと、双子の様にそっくりだ。
身体の小ささよりも、とにかく可愛くて、顔も性格も仕草も全部が可愛い。小さい女の子という感じである。


藍ちゃんは、勝ち気であるが、美人で白くなりつつあるので、とにかく美しい。クルクルと首を激しく回す癖があり、こうして、馬達は誰か近しい馬の真似をする様だ。それは藍ちゃんの母馬かもしれない。

そして…。


白い長男は、とにかく悪い…。
彼の中での、最下位に位置するのは主人の様。

お手入れ中の馬房の中。
ゆっくりと主人を壁に挟み
「痛い!!」
という声を出すまで、挟み続けた。

主人はあっという間に肋骨が折れてしまった。

これも確信犯な様である。

私が異変に気付き、「トレジャー、何してとるんね!!」
と怒ると、ハッ!!とし、
スリスリ…。
怒られるのを、とびきりの可愛い顔で回避…。

トレジャーとは、頭脳戦を繰り広げなければ、あっという間に、トレジャーが頂点に立ってしまう。
たまにスリスリのフリをして、いきなり鼻で思い切り突き飛ばす事がある。
馬の力なので、私は後ろに吹っ飛ぶ。

これも、ワザと。

「ワシの方が上じゃ!!」
の合図。

怖がったり、怯んだらすると、主導権をトレジャーが握ってしまう。
だから、どんなにビックリしても、毅然たる態度を心掛けてい類。
ですから、最近では無くなった。

私の友達も言っていだが、競走を経験している馬の隣で走ってはいけない事を、私は知らがなった。

少し走る真似をしたら、
隣で立ち上がり、「ガルルー!!ヒヒーン!!」
と激怒をし、威嚇をやめなかった。
間近で見る立ち上がった大きさに圧倒され、よく勉強しないと、馬と関わるのは命懸けなんだと思った。

それでも、愛すべき息子。全てが魅力の宝庫である。
ヤンチャでワンマンな中でも、時折見せる優しい顔。
本当に必要な時は、味方でいてくれる。
私が元気がないと、

「ん?どしたん?触ってもええで。撮ってもええで。」

と、首元を突き出し、その後のスマホを見つめるキメ顔。

スマホが何かを理解しているのだろう。

ガキ大将みたいな仔です。


でも…父シップと違う所は、自分より強いお馬さんにはあっという間に従う所である。

勝てそうかな…?と思うと、途端に柵ごと近づき、威張り散らす。

ある意味、平和主義者なのかもしれませんね…笑笑。



不意打ちの撮影には耳を絞る


馬は本当に安心できる場所では、転がり、4本足を投げ出して寝類。
そうして寝ている三頭は、幸せな証拠ではないだろうか?
別々の場所で生まれ、顔を合わせた事もない、兄妹。
こうして巡り合い、共に生きる。

しかし先生曰く、


「三頭は仲悪いですよ…。」

こればかりは、人間の思い描いた美談とはいかない笑


藍姫は美人さん
ミーちゃん、人参どうぞ



トレジャーとミーちゃんはお隣さん

馬と出会ってから、私は時々不思議な体験をする。

馬がもたらす不思議な力。
ゴールドミルクのお話を頂く前日、私は不思議な夢をみた。

夢の中で、私は首がすわったばかりの赤ちゃんを抱いている。
それは、夢の中での我が子の様だった。
その赤ちゃんの顔を覗き込むと…

それは、私だった。
赤ちゃんの頃の自分を抱いてあやしていた。

私は驚き、泣いた。抱きしめた。
「もう大丈夫。私が守ってあげる。もう寂しくないよ。安心して大きくなってね。」
目覚めると、本当に泣いていた。

私の心は、やっと大人に成長したのかもしれない。

トレジャーと出会ってから、

亡くなった父を見た。
祖父の記憶が蘇った。
赤ん坊の自分を見た。

それらを、先にトレジャーが見ていたのかもしれない。
動物とは不思議な力を持っている。

トレジャーと出会ってから、命の糸が繋がる様に、私はある2匹の外猫の親子と出会った。

いつもの買い物帰り。近所の知り合いの家に寄るために、いつもの経路を変更した日、母猫を見かけた。

その母猫の姿に私は息を呑んだ…。

「あっ。この子、腎臓がかなり悪いんじゃないか?」

足元はフラフラで毛が抜けていた。やせ細り、今にも命が尽きそうだった。
掠れた声で、私に
「ニャー」と鳴いた。

おばちゃんに確認のため撮った母猫

「どこかで餌をもらっている。誰かが餌やりをやめたんだ…。」

猫の側にいると、近所の40代位の男性が話しかけてきた。

「この子ね、毛が抜けて、フラフラしているんですよ。
可哀想にね。」
と、毎日見かけていて、水を置いて下さっていた。

私はお礼を言い、友人の地域猫の活動をしているおばちゃんを訪ねた。

「おばちゃん、こういう猫知っとる?」
と、母猫の特徴を話すと、

「知っとるわいねー!!長年餌やりしとるお婆さんが、引っ越すけぇ、餌やりをやめたんよ!!毎日私に電話してきて、猫が可哀想で…って泣くんよ。あなた、私がすると思って電話してくるんでしょ!!って怒ったんよ。
私も20匹以上面倒みとるし、歳じゃけぇ、もうできん…。」

「あの子、何歳くらいかね?」

「10歳は超えとると思うよー。黒猫見んかった?」

「いや、分からんかった…。」

「あの子母猫よ。黒猫の子供がおる。」

「子猫?」

「いや、この子も10歳超えとると思うよ。」
どういう経緯かは分からないが、長年に渡って餌を与えられていた事だけは間違いないと思った。

外猫の生存競争は激しい。
強い猫に追い払われると、弱い猫は餌にありつけない。
母猫は明らかに、生存競争に弾かれていた。

どうにかしないと…。

私はそのまま、母猫を見た場所に戻った。
母猫は、ある家の前で鳴き続けていた。
辺りには、猫が4.5匹いた。母猫以外は、よく太っていた。

「置き餌をしてる。猫が集まって来てる。みんな、待ってる。」

黒猫はいない…。

しかし、物陰にグッタリした黒い猫を見つけた。
やはり痩せていた…。

私はある決心をし、近くのスーパーで餌と皿を二つ買った。
親子の猫がいる場所に戻った。

「食べて…。飲んで…。」
餌と水を差し出した。

猫達は一心不乱に食べた。
「ねぇ、一緒に行こう。あんたらはもう外では無理じゃ…。」

食べ終わると、シャーと威嚇をした。外猫らしい、激しい威嚇だった。

これは、大変そうじゃ…。一人では捕まえられんなぁ…。

真夏の8月。トレジャーを迎えたばかりの頃。母猫の体力が心配だった。
おばちゃんに電話をした。

「一緒に捕まえて貰えんじゃろうか。最後まで面倒みるけぇ。」

と言うとおばちゃんは、涙交じりに
「当たり前じゃないの!!」

時間がない。早く病院に…。おばちゃんと私の、深夜の親子の猫の捕獲作戦が始まるのである。

続く



















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