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人と人とは油断でつながっていくという話

美容師としてフルタイムで働いていた20代前半。1週間のうち休みは火曜日だけだった。

友達とも会う機会が少ない中、学生時代のある男友達は時々遊びに連れ出してくれていた。彼は私の好きそうな音楽を教えてくれたり、流行りの場所にバイクで連れてってくれたりした。男女関係に発展しないことを認定する一定の年月が定義されているとしたら、その基準はクリアしていたように思う。

代官山の西郷山公園。時間帯は覚えていない。わたしはつい油断して素直すぎる心境を話していた。

「休みが火曜日だけで友達と会えなくてさみしいとかも思うけど、実際、土日休みじゃなくてよかったよ。」

「なんで?」と彼が聞く。

「だって、土日休みで自分もみんなも時間あるはずなのに、誘われてないとか思うの嫌だし。自分から誘うのも断られたりしたら嫌だし。火曜日だけが休みなら仕方ないかって思えるじゃん?」

そう答えたら彼は「めちゃネガティブ!!」と言って爆笑した。どこか、いやかなり嬉しそうにも見えた。

我ながら正確な自己分析で、なかなかの発見だと自信があったので”ネガティブ”と言われたことにちょっと恥ずかしくなったけれど、なぜか嫌な気持ちにはならなかったし、まぁネガティブと言えばネガティブだ。

それからしばらくして、何かで同級生数人と集まった時、その時の会話を「聞いてよ、コイツめちゃネガティブなんだぜ…」と他の友達に彼が話していたけれど、みんなの反応は鈍くピンときていない様子だった。

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彼は、今は遠くに住んでいるし、お互い親になって親らしく頑張っているけど、たぶんまた西郷山公園にふたりで行ったら、油断して何か話してしまうかもしれない。

今でも、忙しい雰囲気を醸し出して、誘われないように、誘わない理由をどうにか作っているから何にも変わってないよ。

わたしのネガティブな自己分析を一瞬で理解してくれて、嬉しそうに笑い飛ばしてくれた彼は、今でもわたしの数少ない好きな友達のひとりだ。たぶん向こうもわたしの事が好きだと思う。


油断、油断、油断。語源は色んな説があるようだけど。

何とも、含蓄のある言葉に思えてきた。


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