見出し画像

トヨタ ヤリス クロスHYBRID X 1.5L

自分のクルマが点検でディーラーに入っている、となればカーシェアを楽しむしかない。
というわけで、ちょうどコロナ禍前後に発売したこともあってなかなかディーラーに足を運ぶことができず、結果として今まで乗ろうとして乗り逃していたヤリスクロスを選んでみた。
クロスオーバーを名乗っているだけあって、黒いボディは案外堂々としている。
初代RAV4と同じくらいだろうと思って後から調べてみたら、こちらの方が長さ・幅ともに上回っていた。
30年を経てコンパクトの定義がここまで変わっているとは。
子役だと思っていたタレントがいつの間にか父親役を演じていてびっくり、みたいな感覚だ。

”プラスチック限界芸”はもうしない

ドアを開ける。
レンタカーだけにインテリアは典型的な漆黒の風景。
ダッシュパネルやドアの内張の造形がヤリスとほぼ共通である。
トヨタがひと昔前にやたら肩肘を張って「どうだこのカタチは」とプラスチックの限界に挑戦していた時期の子供っぽい造形は影をひそめ、オーソドックスながら使い勝手の良い操作系は好感が持てる。
シートは懐かしき70年代のトヨタ車を思い出させるナデ肩造形の一体式ハイバック。
感触はいかにもスポンジを思わせるけれど、座り心地はまあまあ。
チョイ乗りならば問題ないだろう。

夜を思わせるパワーユニット

STARTボタンを押すとモーター主導で車体が動き出す。
進み出した瞬間、反射的に深夜の記憶が頭を支配する。
モーターのくぐもったノイズの出方、エンジンが始動する「ぶるん」という音と振動がJPN TAXIにそっくりなのだ。
山崎怜奈のタクシーアプリの広告を酔った頭で胡乱(うろん)と眺めて走る環七や第一京浜の滲んだ照明が脳裏に浮かぶ。紛れもない夜中にしか聞かない音。

週末の午後、シラフであることに違和感を覚えながらアクセルを踏み込むと、3気筒エンジンがやけに車好きをうずうずさせる音を発する。
ポコポコとした粒立った振動を背景に、回転数を上げるたび懐かしき内燃機関の純粋無垢なメカメカしい音が聞こえてきた。
モーターの存在を感じさせず、軽快さを味合わせてくれる点は想定外の魅力だ。

室内は饒舌に

室内はなかなか賑やかである。いや、メカの音がするのではなく、安全を考慮した先回り機能の音が鳴りまくるのだ。静粛だからこそ目立つ。
やれ前の車が進んだからアクセルを踏めだの、やれ車線をはみ出すかもしれないよ、だの。やかましいことこの上ない。
これをありがたがるヒトはいるのかもしれないけれど、まったくお節介だ。
いかにも日本的などうでもいい幼稚なおもてなし(のつもり)である。
オーナーだったら納車から数分でキャンセル機能を探すに違いない。

オーガニックな高校生

駐車場からショッピングモールまでの道すがら、お節介なしゃべくりが気になる以外はまったくソツがない作りである。
太陽の方向によってはゴーグルを模したかのようなメーターのガラス面に映る自分の顔が気分を害することを除けば、昨今のよくできた実用車の模範であることは間違いない。
成績は優秀、運動能力もまあまあ、ヘアスタイルやファッションも流行を取り入れ、親との関係も良好……そんな私立高校の男子生徒のようだ。
言い換えてみれば見事に印象に残らない、とも言える。

道ゆく高校生はもちろん、多人数のアイドル集団の違いがわからなくなって久しい初老の脳みそが判断することなので、話半分で聞いていただきたいが、良くできすぎているが故に心に響くものがいま一つ感じられなかったのが正直な感想。
SUV的なアピアランスから期待するような非日常を思わせる演出があまり見られないのが個人的には物足りなかった。

アイドル稼業も楽じゃない

RAV4のようなアウトドア性を盛り込んだ「ギア感」はライズ/ロッキーをどうぞ、ということなのかもしれない。
コストとの兼ね合いはあるだろうけれど、2トーンカラー以外にもファッショナブルな何かがあっても良いのではないかと思う。
現状、上級グレードで採用している合成皮革を使ったプレミアム的な演出には、チグハグさを感じずにはいられない。
なにしろ今度は身内から、同じプラットフォームを利用したレクサスLBXという(価格帯が違えど)似た方向性のモデルも登場するのだし。
これからどのようなキャラ変更を経て、次世代に繋げていくのだろうか?

海外ではC-HRやアイゴXあり、国内では前述のライズ/ロッキーもある。
人気セグメントゆえ、僅かな差異と優位性を戦わせるかなり難しいセグメントになってしまったコンパクトSUVのなかで、ヤリスブランドは楽勝ではないのかも。

この苛烈な戦い、瓦解してしまったあのアイドル事務所が、末期にさまざまな個性を交えた(え、この人たちそうなの!? とちょっと疑ってしまう普通な見た目の集団もあり ※個人の見解です)グループを同門で乱立させ、差異が少ないせいで初老の頭をこれまた混乱させていたことを、うっすらとなぞるような状況になってるよな、と思いながら返却場所に戻った次第である。