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MAZDA CX-60 XD-HYBRID Exclusive Sports

黒歴史を彷彿とさせるモデル名

マツダ クロノス、オートザム クレフ、アンフィニ MS-6、アンフィニ MS-8……。
かつて90年代にマツダがブランドイメージの向上とシェア拡大を狙った伝説の「5チャンネル戦略」時代に登場したクルマたちだ。
どのクルマがどのカタチだったかあまりにもわからないので、定期的にボケ防止として自問するようにしている。

当時の写真って雨上がりが多い気がする

なぜこんなことをのっけから書いたかといえば、昨今、マツダのモデル名があのときの混乱を彷彿とさせるような有様になっているような気がするからだ。

モデルライフの途中から強引な名称変更を敢行したマツダ MAZDA2(※正式表記はこんなふうにマツダを2回言う約束。思い切りヘン)や、マツダ MAZDA6など、いったん脳内で「デミオ→2」「アテンザ→6」と変換しなければいけないから厄介だ。
磯野貴理子じゃないんだから、そんなに軽はずみに名前を変えてほしくはないし、サンプラザ中野くんの例を見るまでもなく人気が回復するとも思えないんだから軽率な改名はカンベンしてほしいものである。

どえらい今後の車種構成

リアビューはオーソドックス

さらにSUV群は今後どえらい混乱を来す予感しかしないから心配だ。
CX-30(CX-3の後継なの?そうじゃないの?)、MX-30(EVって販売開始したんだっけ?)、CX-5(CX-60と併売するの?)、CX-8(もっとおっきくなるの?)……国内だけでこのありさま。
ちなみに現在、わかっているだけでもCX-50、CX-70、CX-80、CX-90が世界中の適所で発売もしくはスタンバイされているらしい。ひいい。マニア泣かせだ。
国内で発売予定なのはどうやらCX-80で、CX-60とサイズが被りそうなCX-5は併売するとのこと。
販売現場の混乱は必至だろう。
「ややこしい車名のモデルは売らないぞ!」なんてディーラーがストライキを起こしたりして。

マツダってメーカーは25年に一度くらいの周期で、ちょっと調子が良くなると定期的に素っ頓狂なことを始めるので油断がならない。
「もうちょっと、その、どうにかならんかね」と、ファンは行く末をずっと見守らなければならないから本当に気の毒だ。

そんなことを頭の中でボンヤリ考えているうちに試乗が終了してしまうほど短時間しか動かしていないので、感想が断片的になってしまうことはご容赦願いたい。

レイアウトに裏付けられたホンモノのフォルム

伸びやかなボンネットとキャビン

写真で見たときはFRっぽさを演出するあまり、ボンネットのフラットさと相俟ったのっぺりとした切り落とし具合に違和感を覚えたものだ。
しかし実際は、FF車がムリやりFRっぽさを演出する「かりそめのロングノーズ」とはやはり違う、純粋にメカニズムと車体のレイアウトから作り出された伸びやかさが印象的であった。
マツダ MAZDA3から始まった、筋肉質で広大な面積を誇る大胆なドア周りの絞りも美しく表現されており、マツダの造形レベルの高さが楽しめる。
XD-HYBRID Exclusive Sports(長いグレード名だ…)価格は¥5,054,500。
そりゃあそうか・・・。

さながらモデルルームのようなインテリア

窓外の風景は庶民的だが豪奢な内装

標準装備のパノラマサンルーフから差し込む自然光と相まって、明るく広い空間はなんだか新築マンションのモデルルームのような非日常的な余所行き感がある。

スエード調のダッシュパネルがとにかくスケベ

そんなインテリアは日本車らしからぬスケベなキャラメル色で、あしらいもエッチである。
ベントレーを彷彿とさせるステアリングリムの2色構成もすごいが、ダッシュパネルのスエード調素材(レガーヌ、という名前もちょっとスケベ)も大胆だ。たしか80年代末期のマセラティにこんな仕立てがあったことを思い出した。SUVなのにこの艶かしさはなんだろうか。
ドアトリムやセンターコンソール部分の造りも緻密。

なんら不満のない後席の居心地

レクサスの関係者が焦ってノギスやマイクロメーターを使って、室内のいろいろな箇所を計測する姿が目に浮かぶようだ。
これだけクオリティが高いと、グレードごとに作り分けられている素材の違いを実際に確認してから成約したい、なんてオーナーが続出するのではないだろうか。

洗練まであと一歩のディーゼルエンジン

誇らしげな「直列6気筒」のレリーフ

トピックはなによりも直列6気筒3.3Lディーゼルエンジンだろう。試乗したモデルは駆動用の小さなモーターを組み合わせた「e-SKYACTIV D」を搭載した仕様。
スタートボタンを押すとアイドリング段階でガラガラとディーゼルの典型的なサウンドが耳に届いてくる。
先日試乗したプジョー308より音の侵入が大きいのは排気量が倍以上違うからであろうか? もしくは存在感を気づかせるための演出か。
以前試乗した6気筒ディーゼルを搭載したメルセデス・ベンツG350dの蕩けるようにスムースで完璧なエンジンフィールと比べるのは気の毒かもしれないが、洗練まであともう一歩といった印象だ。

「映え」と「硬さ」のせめぎあい

営業のスタッフさんが始終気にしていたのはYoutubeなどのSNSで意見が多かったという乗り心地の固さについて。
確かに低速でカタさは多少あるものの、20インチの巨大なタイヤを履く割にはそこそこドタバタを抑えているなといった程度。
高速になるにつれてフラットになる種類のものだと思う。
体格に似合わず鼻先が素直で、ノーズが内側を向いてくれるほうに意識が行くのでそこまで気にはならなかった。

いっぽうで気になったのはマツダが独自開発した8速ATのシフトショック。
走り出しから3速までで明確にコツンコツンと変速ショックが感じられた。
ふだん8速ATを常用している身としては「あれれ?」と首を傾げてしまう仕上がり。
エンジンのトルクが大きいからなのか、個体差なのかはよくわからないが、特に輸入車の多段ATに乗り慣れている人は気づくレベルだろう。
毎年敢行されるであろう年次改良でブラッシュアップされていくことを願いたい。

意識の高さが滲み出る

デザイナーズマンションのような凝ったしつらえを施したインテリア装飾、明るい室内、明快でシンプルなインターフェイス、わかりやすくアピール度が高い技術の数々。
UOMOとかSAFARIとか、美容院でしか見かけず「いねえよ!そんなやつ!」と髪を切られながら心の中で叫ぶのが恒例となっている分厚いファッション雑誌の中身で躍る「理想的な風景」がピッタリだ。
おまけに意識が高そうに見える。「映え」も十分。レンジローバーを買えずに我慢しているだろう、なんて戯言なんて気にせず、あえて選びませんでした(ニッコリ)みたいな回答がなんの衒いもなくできてしまうヒトビトがこぞって食指を動かしそうな仕上がりだ。
もちろんクルマに一家言あり、マツダ混迷の時代の車種をスラスラ言えちゃうようなコアファンもFRプラットフォームの登場に咽び泣き、その味わいとクオリティの高さに喜びの表情を浮かべるに違いない。
あとに続く気合の入ったFRモデル群の登場も楽しみだ。

再びやって来たモデル名混迷&車種整理の時代を数年かけて乗り越えたあと、どんなプレミアムな未来が待っているのかしばらくドキドキしながらCX-60と、その周辺の車種事情を見守りたいところである。