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メルセデス・ベンツ G350d

渋谷・六本木界隈でもっとも目撃する機会が多いメルセデスといえばこれ。
悪路もねぇのになんでこんなデカいヨンクに乗るのよ…と思ってたけれど、そりゃあ選ぶかもしれないなと納得してしまうほどデキがよかった。

外観こそ先代のNATO軍ご用達な雰囲気は残っているものの(これがまたいい)インテリアはまったく別物。星野グループが手がけたんじゃないかと思うくらいの徹底した「外クラシック中モダン」の様式。メーター周りは何もそこまで液晶にしなくても…と感じなくもないけれど。

アクセルもステアリングもブレーキも拍子抜けするほど現代的で、フラフープみたいに大きなステアリングをヨッコラセと構えたことを覚えている身としては若干の感傷を覚えてしまったことを報告しておきたい。
ただしドアのバシャーン音と断頭台を思わせる(聞いたことないけど)ドアロックの切羽詰まった感じが健在なのはとにかくホッとした。

それにしても直列6気筒のディーゼルエンジンは出色の仕上がりで、ガソリンエンジンかと間違えるレベルで特有のガラガラ音とはまったくの無縁。
ヅーーーンという身の詰まった直6らしい快音だけが耳に届く素晴らしいセッティングと、滑らかで強力なトルク感にはうっとりしてしまった。
EクラスやSクラスでも採用されているこのエンジン、内燃機関が終末を迎える寸前の名器かもしれない。

フラットな乗り心地はレンジローバーとは違う方向性の快適さを提供しており、好みによってはこちらに軍配を上げるオーナーもいるんじゃないだろうか。
なによりの美点は2世代ほど前のすべてのメルセデスに残っていた、ある種の重さとダルな感覚がこのモデルでは感じられることだ。
機械の息吹きとでも言うのだろうか。歯車が一枚一枚噛み合って巨体を動かしているようすがカラダに伝わってくる。
最近のメルセデス、いやクルマ全体から消え落ちはじめている大切なノイズがこのクルマには残っていると思う。
もしかしたら、セレブ様たちはこの息遣いを味わうために2.5トンもあるこんな小山のようなメルセデスをわざわざ都会で所有しているのかもしれない。フツーのメルセデスよりタイムレスな雰囲気もあるし。

ただひとつオーナーに言いたいのは、ゲレンデヴァーゲンとして生を受けたこのクルマを港区内の移動だけで終わらせることなく、たまにはつんのめるような斜面や、火星のような荒涼とした岩場など、本領を発揮するシチュエーションに解き放って欲しいということだろうか。
成功の証としてのアイテムで終わらせるにはあまりにも勿体ない名車なのだから。