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クラウン(スポーツ)SPORT Z ディーラー試乗

クールな謹賀新年

元日から大惨事があったものの、恒例の箱根駅伝は今年も予定通り開催された。
長時間の中継のあいだ、頻繁にクラウンシリーズのCMが挟み込まれていたのをぼんやりした頭で覚えいている。
演歌や仁丹臭さを徹底的にデオドラントしたクールでシャープな絵作りは、新年の弛緩した家庭にびっくり水のような効果をもたらしていた。

そういえばクラウンシリーズが発表されてからはや半年、一度も乗ってないということに気づいた。
しかもランナーが復路の鶴見中継所を過ぎたあたりという遅さでだ。

購入検討者でもないくせにノコノコとディーラーに赴き試乗をするのは申し訳ない、と例の自意識過剰が発動しクロスオーバーにはシートに座るだけに留まっていた。
このままじゃいけない、とお屠蘇気分(呑んでないけど)に力を借り、2024年一発目はクラウン・スポーツに乗るため思い切ってディーラーを尋ねてみた。

クラウン史上もっともグラマラス

想像していたけれど、店頭のクラウンスポーツは自然光の下ではそそり立つようにデカい。
ニッポンに配慮しない国際的なサイズとはこういうことなのだ、という事実をまざまざと見せつけられる。
レンジローバーもかくやと思える押しの強い大きさに思えるが、サイズ的にはポルシェ・マカンとさほど変わらないらしい。そうなのか。
灯火類などのディテールや全体のフォルムは事前の評判を聞いていたとおり、どうしてもフェラーリ・プロサングエを思わせる。
たしかにアレッ? と脳が迷う。どちらもデザイントレンドを追いかけたらこうなった、という偶然がもたらした結果に違いないのだが。
最近の「スポーツカー」の定義が低く構えたバッタのようなペタンコ傾向から急速にシフトしていることに気づかされる。

エロティシズムをもっと

インテリアはまことにそっけない。
ほかのクラウンシリーズと歩調を合わせたダッシュパネル周りはむしろビジネスライクに見える。
ドアハンドルの異様な軽さや細部の質感の安っぽさなど、ちょっとチグハグな印象だ。
これだけグラマラスな外装を有し、なんとなれば乗り出し700万円クラスのクルマとしてはもうちょっとこだわって欲しかった。
やたらとスケベでクラフトマンシップすら感じさせるマツダCX-60のインテリアを覚えた目には、同じ価格帯(ましてや300万円台)には見えないのが正直な感想。
レクサスとの政治的な兼ね合いがあるのかもしれないけれど、競合ひしめくこのクラスの中では見劣りする気がしてならない。

カタチから期待は控えめに

試乗コースは国道の直線を行って帰ってくるだけの凡庸なものなので、限定的なことしかわからないものの、ママチャリもかくやと思うほど大径のホイールから想像するゴツゴツさはほぼなく「スポーツ」の名前とは相反してゆったりした印象を受けた。取り回しもしやすい。
なんとなくスバル レガシィ・アウトバックあたりを思い出す乗り味だ。

トヨタのハイブリッド特有の”深夜2時の音”タクシーサウンドは分厚い遮音材によって遠くに押しやられ、終始静粛なあたり、懐かしきクラウンらしさが残る。
ステアリングから伝わる路面の凹凸情報が少しだけ希薄な点もいにしえの伝統を感じる。

一方で昨今の過剰なハイパワーを有するスポーツSUV的な獰猛さは皆無だ。
試乗するお客さんが一様にそのことを言うらしく、営業スタッフ氏はやけにスムーズに”SPORTSモード”を勧めてくれた。
切り替えてみればたしかに「それっぽい」動作感覚になる。
なんだ、こっちが標準モードでいいんじゃないか。
積極的に運転を楽しむハズのクルマなのにパドルシフトが存在しないのも気になった。

建設的な迷い

ニュルブルクリンク詣でを最大のアピールポイントにしていた先代クラウンは、それでもこれまでのクラウンの延長線上として理解できる範疇での変貌だったと思う。
「走り」にフォーカスを絞っていくと、その先どんどんシュリンクしていくんだよなあ、N社のSみたいに…と余計な心配をしていたらやはりわずか4年で息切れしてしまった。
ついにクラウンも姿を消すか…と思ったそばから今回のバリエーション展開である。
映画でしかお目にかかれなかった気難しい大御所俳優が、突然グルメバラエティに出演してハゲヅラを被ってはしゃぎ出すくらいのインパクトを世の中にもたらしたのではないだろうか。

しかし常人では考えられない早さでの変わり身が仇となったのか、まだまだ当のトヨタもそれぞれのキャラクター作りに迷っているフシがあるように感じられる。
勝手な想像だけれど今回の「スポーツ」は最後の最後まで命名を「クロスオーバー」にするか迷ったのではないだろうか。
そんなことを頭に思い浮かべるくらい「スポーツ」と呼べるスパイスがもう少し欲しかったというのが率直な感想だ。パドルシフト然り、インテリアの獰猛さ然り…。

今後、このたびの急速な進化を回収するべく各々に与えられた名前に対する性格のマスタリングはコツコツ時間をかけて進めて行くつもりなのだろうと思う。
クラウン・スポーツに関して言えば、GRバージョンやもっと獰猛なターボ搭載のRSモデルなどが登場すればひと通りのストーリーが完結しそうな気がした。
やっぱりクラウンの進化は毎回見逃せない。