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溝口智子
2024年6月8日 23:01
硝子扉が開く音に、私は顔を上げた。「いらっしゃいませ」 画廊に入って来たのはショートボブで、ベージュのパンツスーツ姿の女性だった。私の声が耳に入らなかったかのように、引き寄せられるように、奥の壁に掛けてある絵に近づいていく。 他のものは目に映っていないだろう。まっすぐに絵に向けられた瞳はどこか遠くをみているようだった。 女性はそこから右にさかのぼって、一枚ずつ丹念に絵を見つめてい