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聖夜・詩二編


聖夜


ゆうぐれに灯りもつけずに

いいえ……私はしっかりしています

ただもうしばらくめそめそさせて

あなたに甘えさせてください

私たちが何よりも至福であると

気づくに充分にあなたが

ゆうげの食卓をつくろって下さった

私たちの時折のぜいたくの

あたたかいブロイラーチキンが

この丘陵の家々に秘められた

一つ一つの祈りの香気としてただようのです

足をすくめて羽のはえた!黄色い天使!

火の中で萎縮したセックス

死んだあの子のセックスもこのように小さかった

私たちのあの子もこのように足を開いて

とても可愛かった

上手に切り分けて下さいあなたの上手な料理………

何もかもやっていただいてすみません

みにくく切りこまれるのはいやです

形よくやわらかいチキンを

そっと歯にあてて  そして

優しく  優しく食い殺します


       測量日誌*19才の記憶

この白橿の並木は

もう半世紀はこの街に生きてきた

そのままに

まだ生きている


かつて

酔いを重ねても寝付かれない

朝方の暗い街を

酒買いたしに歩いていると

一本の樹に集まった雀たちの

朝の歌が始まっていた

空はかすかに白みはじめ

世界は祝福されていた

しかし黎明とは滅びの時かと

ひとり朽ち果てた感性を呪った


命は過酷だと知った

だから酒に酔ったわけでもない

ただ酔いのままに

命を引きずって

時間をやりすごしていた

感受性を棄てても

命の苦痛は変わらなかった


あの雀の群れも今は生きていない

しかし雀たちの命は

この街で滅びることはない

命のなんたるかを知るすべはない

しかし

生きながらに感受性を喪う

生きながらに感受性を喪う!


黎明に滅びるものは滅びよ

それでも命は滅びぬというなら

私も空をみあげ

ただ泣いていればいい

この白橿の並木で

泣きながら老いればいい

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