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1回転=1mm=1ポンド

弓の強さ(ポンド)を表すときには、2つの方法があります。表示ポンド「Bow Weight」と実質ポンド「Actual Weight」です。
実質ポンドは、個々のアーチャーが実際に弓を引いて、フルドロー時の強さを表します。これはそれぞれで異なります。それに対して、表示ポンドは個々のリムに書かれている強さのことで、基本的に同じ基準で測定されています。アメリカの統一団体、ATA(前身はAMO)と呼ばれる組織で決められているもので、以前は弓のバックサイドから矢を28インチ引っ張った時の強さを、ポンド表示するのが一般的でしたが、1998年からはピボットポイントから26-1/4インチを引っ張った時の強さで表すことに変更され、現在ほとんどのメーカーが採用しています。この基準位置よりドローレングスが短かければ、表示ポンドより弱い実質ポンドになり、これより長く引けば表示以上に強い実質ポンドになるというわけです。

1980年代中頃まで、弓の表示ポンドは「1ポンド刻み」で、ハンドルとリムの取り付け角度は、ワンピースボウはもちろんのこと、分解できるテイクダウンボウも一定で不動でした。メーカーは出来上がった弓を測定して、その表示ポンドをリムに書き込みます。この測定には専用の測定機器が使用されますが、1/100単位までほとんど誤差なく計ることができます。
ではこの時、小数点以下はどのようにするのでしょうか?「切り捨て」で表示するメーカーもあれば、「四捨五入」して表示ポンドを決めるメーカーもあります。40ポンドと書かれているリムで、切り捨てなら、「40ポンド=40.9~40.0ポンド」です。これを超えれば41ポンドのリムです。四捨五入で測定する場合は、「40ポンド=40.4~39.5ポンド」になります。どちらを取るかはメーカーによって様々ですが、切り捨ての方が多いかもしれません。例えば、アーチャーから「40ポンドのリムを買ったのに40ポンドないじゃないか」と聞かれた場面を想像すれば、分かると思います。しかし、どちらの場合でも、同じ表示ポンドの弓に1ポンド近い差があり、40ポンドと書かれていても40ポンドに達していない場合もあるわけです。

ヤマハのポンド測定器
このリムは「38ポンド」と表記されます。

ところが1983年にHOYTが発表したハンドル「GM」は違いました。同じリムで「10%」のポンド調整ができるというのです。表示40ポンドの10%は「4ポンド」です。
しかし、リムの「性能は差し込み角度に宿る」とするなら、その許容範囲は測定方法からも分かるように「1ポンド」が限度です。

ここで視点を変えます。これまで「差し込み角度」と言っていますが、これは図面上の設計段階から決められている角度です。しかし実際にアーチャーは、角度ではなく「リムボルト」と呼ばれる。ポンド調整用のネジを回すことで調整をします。
そこでリムボルトは、何回転くらい動かすと何ポンドになるのでしょうか? メーカーによってネジサイズは違いますが、ミリネジの場合、外径10ミリで、「ピッチ1ミリ」のネジを使っています。インチネジもほぼ同じです。ピッチとはオスネジとオスネジの間隔です。ピッチ1ミリなら、リムボルトを1回転締めればリムは1ミリ起き上がり、1回転緩めれば1ミリリムは寝ることになります。
では、HOYTのいう「10%」ポンド変更するには、どれだけネジを動かすのでしょうか。40ポンドのリムが分かりやすいのですが、「40ポンド×10% ≒ 4ポンド ≒ 4ミリ = 4回転」になります。4ポンド変更のためには4回転ネジを回す必要があり、リムボルトは「1回転すれば1ポンド」強さが変わるのです。

そこで話を戻して、皆さんのリムも表示ポンドが40ポンドくらいであれば、リムボルトを1回転締めれば41ポンドになり、1回転緩めれば39ポンドになります。そして10%のポンド調整ができるということは、GMも今使っているあなたのリムも、42ポンドにも38ポンドにもなるということです。あるいは44ポンドでも36ポンドにでもなるかもしれません。
ウソのような話だと思いませんか。性能が宿り、性能が維持されるのは「1回転
=1ポンド」の幅です。実際にあなたのリムボルトを、2回転締めた時と2回転緩めた時を想像するか、やってみれば簡単に分かります。見ただけでそれがまったく違うリムだとわかるはずです。そこに性能が宿っていないのは、一目瞭然です。

そしてもう一つ、大事なことを忘れています。あなたのリムの「表示ポンド」を示すリムの差し込み角度、差し込み位置はどこでしょうか? ボウスケールで測定して、リムに書かれているポンドと同じ位置を探す方法もありますが、1ポンド程度の誤差は生じます。
同じメーカーのリムとハンドルであっても、「デフォルト」の位置を見つけるのは難しいのです。デフォルトとは、初期値であり基準位置です。しかし、どのメーカーも、デフォルトの位置を説明していません。デフォルトにセットすれば、「表示ポンド」になるだけでなく、リムが最高の性能と性質を発揮する、メーカーが推奨、保証する、非常に重要な位置のはずです。だからこそ、デフォルトは1ミリたりとも動かすべきところではないのです。にもかかわらず、どのメーカーもデフォルトを示さずに、ほぼ共通して「約10%のポンド調節ができます」と謳っているのです。こんないい加減で無責任なことがあるでしょうか。

「GM」はホイットおじさんの弓ではありません。

「10%」のポンド変更とは、表示40ポンドのリムの場合、4ポンドです。リムボルトで「約4回転=約4ミリ=4ポンド」の可動を意味します。それに加えてリムの表示は「2ポンド刻み」です。表示「40ポンド」のリムは、44ポンドにでも36ポンドにでもなり、そこに測定値1ポンドの誤差もあるというのです。

Hoyt「TD2」
リムの性能は差し込み角度に宿る

「デフォルト位置」は、1ミリたりとも動かすべき場所ではありません。ポンド調整を優先するなら、性能は犠牲にしていると理解すべきです。差し込み角度が2ミリも変われば、全く違う性質、性能のリムになります。もしデフォルトからリムを起こせば、リムはバタつき安定性に欠けます。また逆に寝かせれば、落ち着きはしてもリム全体が美しいカーブを描かず、ベタベタのリムになります。
ワンピースボウの時代から、形状や素材は変わっても、ハンドルとリムの接合角度は不動であり、それは最高の性能、最良のパフォーマンスを発揮するとメーカーが決めたことを忘れてはいけません。いくらメーカーが忘れていてもです。

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