見出し画像

カーボンリムとオレンジジュース

1976年、それまでのグラス(FRP)リムにカーボン(CFRP)が貼り合わされた時から、グラスリムとの区別のために少しでもカーボンが入っていれば、それらは「カーボンリム」と呼ばれるようになりました。
この時からアーチェリーの世界では、少しでもCFRPが含まれていれば、カーボンアロー、カーボンロッド、カーボンサイトなどと呼ばれるようになったのです。そしてカーボンは高級品や高性能の代名詞のように扱われ、その名が付くだけで高価な商品となりました。

農林水産省のお達しでは、オレンジジュースはオレンジの搾汁100%の飲み物だけがジュースと称せられるのですが、アーチェリーの場合は果汁が10%であったとしても果汁入り飲料ではなく、ジュースと呼んで売ってもいいというのです。CFRPは樹脂の中に繊維が入っていますが、カーボン繊維の量に関わらず、入っていれば「カーボン△◇〇」と呼ばれるというわけです。

我々が「グラスファイバー」や「グラス」と呼んでいるのは、「ガラス」(Glass)です。窓にはまっているガラスとグラスは同じものです。ただしグラスと言う時は、ガラスを溶かしてストリングの原糸のような細い繊維に引き伸ばしたもので、「グラスファイバー=ガラス繊維」です。
では、ガラス繊維を使った「FRP」とは、「Faiber Reinforced Plastics」の頭文字を取った「繊維で強化されたプラスチック」の総称になり、繊維をプラスチックで固めたものです。しかし最近では、いろいろな繊維が使われ、グラスとは限らなくなったので、あえてガラス繊維の入ったものは「GFRP」と呼ぶこともあります。

「CFRP」とは、「Carbon Faiber Reinforced Plastics」でカーボン繊維で強化されたプラスチックです。この時、繊維を「強化材」と呼び、カーボン繊維です。そしてそれを固める樹脂を「母材(マトリックス)」と呼び、プラスチックのことですが、アーチェリーでは「エポキシ樹脂」が一般的に使われます。硬化収縮が小さく、接着性や耐熱性に優れ、比較的安いからです。
リムの反発力(弾性率)やねじれ剛性といった強度などの機械物性要因は強化材の特性に起因します。そして炎天下や雨中での変形や使用による劣化や耐久性といった化学特性要因は、母材の特性に起因するというわけです。

CFRPとは、2つ以上の素材を組み合わせた複合材(コンポジット)の一種で
炭素繊維を単体で使うことは、あまりありません。

CFRPがたくさん入っていれば栄養豊富でカラダに良いかというと、必ずしもそうではありませんが、繊維が少なく樹脂が多ければ、カーボンそのものの特性が発揮されず、重く強度も劣ります。
あるいはオレンジジュースと言っても、中身が温州ミカンやポンカンでは、見た目は同じでも味や栄養が異なります。

繊維には長さがあります。カーボンエクステンションなどに使われる繊維は短繊維で、コストが安い分カーボン繊維本来の性能ということでは長繊維に勝てません。

長繊維はリムやカーボンシャフトに使われます。では、長い繊維が使われていればいいのかというと、繊維には方向とグレードがあります。CFRPに成形する時、カーボンクロスやカーボンロービングと呼ばれるように、繊維の種類や使い方、方向が大きく性能に影響します。ロービングと呼ばれる一方向の繊維の流れがリムの長さ方向に向いているものを100と考えれば、それを90度横向きの繊維に置き換えれば、反発力は0です。では長さ方向だけでいいのかというと、そんなリムは反発力は大きくても、ねじれ易く使い物になりません。そこでメーカーはクロスと呼ばれる布状に繊維を織ったものを使います。縦横に繊維が通っているのです。しかしこれも縦横直角に使うか45度斜めに配するかで性能が大きく異なります。一般的には斜交クロスを配するとねじれ剛性の高いリムができます。しかし反発力は90度に比べれば半分です。

最後にカーボン繊維にも、グレードや種類があります。カーボン繊維には多くの長所がありますが、アーチェリー用品に使われる理由は、軽くて強いことです。比重が1.5~1.8程度と鉄の比重(7.8)に比べて非常に軽く、強度(比強度・比弾性)に優れて、比弾性率が高い(反発力に富む)という機械的性質です。
そして近年、研究開発の成果としてこれらの性質は、より高性能なスーパーカーボンを生み出しています。しかしそれらはオールマイティーというのではなく、高強度を目指すものや、高弾性に性能を発揮するものなどへと進歩しています。そして、メーカーはこれらの組み合わせによって、より良い性能や耐久性、コストダウンを求めます。しかしまだまだ、非常に高価です。

同じオレンジであってもジュースに適したもの、そのまま食べて美味しいもの、見てくれだけのものと、それぞれです。スーパーでオレンジを買う時、単に安ければいいのなら安いものを探せばいいのですが、高いお金を払うのなら、袋に書かれている表示だけでなく、手にとって1個1個をよく見てみないと腐ったオレンジを買うことにもなりかねません。無駄使いと失敗のないように、気を付けてください。最近はカーボン模様のシールが表面に貼られたリムが多くあります。

いいなと思ったら応援しよう!