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シンデレラのあなたにガラスの靴を履かせたいぼく #超短編小説

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かめがやひろしの超短編小説マガジンです。
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#短編

ぼくらの「ずっと待ってるから」はどこへ行ったのだろう(超短編小説#27)

土曜日の午前中に車のなかで 彼女は目に涙をためてぼくにこう言った。 「ずっと待ってるからね。」 想いをこめたということが 渡されたときから伝わってくる手紙には こう書かれていた。 「ずっと待ってるね。私がそうしたいし 身勝手でごめんね。」 日曜の午後の渋谷の喫茶店で ぼくは何食わぬ顔でこう言っていた。 「きっとずっとこのまま 待っているんだと思う。 結婚しても子どもが生まれても。」 どれも今ではその 「待っている」という状態は もうどこにもなくて お互いがお

振られてとてつもなく死にたいと思ったのに、ぼくはまだこの世界で呼吸している。(超短編小説#21)

振られた。 大好きだった彼女に。 あんなに仲がよかったのに 振られた。 振られた直後のこの世界は 絶望という言葉が似合いすぎるほど 色を失っていた。 忙しいはずの3月も それより忙しい4月も 絶望のなかでの記憶は どこかあいまいで それでいてただただ ツライだけだった。 でもぼくは今こうして まだこの世界で 呼吸している。 「呼吸」という言葉を辞書でひくと 『息を吐いたり吸ったりすること』 と書いてある。 全然食欲がなくて うまく笑えなくて 急に悲しくなって 泣い