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何度見ても魅入ってしまう映像、それを撮った実相寺監督恐るべし。

日曜日の朝、最近NHK-BSで4K版の『ウルトラセブン』を放送している。
月曜日の夜には、同じくHNK-BSで『ウルトラQ』こちらも4K版の放送をしている。どちらも円谷プロが製作した特撮ドラマだ。
円谷プロと言えば、映画『ゴジラ』が有名で、そのせいか子供向けの印象が強い。確かに『ウルトラマン』はTV局に子供向け特撮ドラマを謳い、その企画で放送枠を獲得して製作されたので、その通りの作りになっている。
巨大な怪獣が出現しビルを破壊、科学特捜隊が迎え撃つが、ナンダかんだあり、最後は変身したウルトラマンが登場して、必殺技スペシウム光線で怪獣を倒し、空に帰っていくと言う、展開だ。
実に分かり易いが、これは時代劇のパターンを踏襲している。
巨悪の根源=悪代官が、街の有力商売人=越後屋と組み、悪事をはたらく。町人や農民が被害を被っていると、謎の旅人=実は水戸光圀が現れ、助さん格さんらと大立ち回りの末、最後は問答無用の葵の御紋の印籠を出して万事解決。そして去って行くと言うやつだ。

きっと、この勧善懲悪のストーリは日本人の深層心理の中に刷り込まれていて、全ての事柄はこうなると思っている節がある。
困った事が起こると、自分ではない何者かが、いずれ駆けつけ必殺技を繰り出し、謝礼も取らずに去って行く。
そんな都合の良いことは全く起きないのだが、困ったことがあると、自分で解決策を昂じることもなく、他人(時に政治、時に時代)のせいにして、現れることのないヒーローを待ち続けるのだ。
それも、元寇の時に、神風と言う、都合の良い異常気象があり、救われた民族の末裔なので仕方のない事なのかもしれないが。

ヨーロッパにはヒーローものはほとんどない。あるのは魔法とドラゴン、居ても実在の人物をモデルにした剣士の寓話だ。
アメリカにはアメコミのヒーローはいるが、彼らの能力には努力や、悲しい過去があり、あまり能天気な印象はない。
何よりも、カタルシスがない気がする。

まったく、話は逸れたが『ウルトラセブン』である。
セブンに巨大怪獣が、天変地異のようにいきなり現れ話しは少ない。大抵は地球を侵略する異星人の策略の罠にハマる『モロボシダン』=ウルトラセブンの話しである場合が多い。
これには、脚本家の金城哲夫の存在があるとよく語られるが、時代と言う空気がそうさせたのではないかと思う。
確かに沖縄出身の金城は、日本人であるにも関わらずパスポートが無いと入出国できない、実質、アメリカの植民地である地からやってきて、その出自の影響を余す事なく脚本に盛り込んだが、それが必要とされた、当時の空気感もあったのではないだろうか。そう、一時期のハリウッド映画がベトナム戦争の影響を盛り込まなけば、製作意図を謳えななかったように。

今朝観た、『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」も怪獣は登場しない。
と言うよりも、この回の監督は実相寺昭雄が務めており、実相寺が撮りたい映像をセブンと言う場を借りて表現したような回である。
私は、この回の映像をさまざまな年齢で見て来たので、見慣れたはずなのだが、見入ってしまう。
何なのだろう。あのフレーミング、あの照明、あの陰影。そして、あの音響、音楽の使い方。
夕景に飛ぶウルトラホーク1号、夕日の逆光での私服のアンヌ隊員、ちゃぶ台を挟んで対話するモロボシダンとメトロン星人。
曰く「地球人を滅ぼすのに暴力は必要ない。互いの信頼感をなくせばいい。そうすれば、人間は敵視しあい、やがて自滅して行くだろう。」
このセリフは最後のナレーションへと続く。
「メトロン星人の地球侵略計画はこうして終わったのです。人間同士の信頼感を利用するとは恐るべき宇宙人です。でもご安心下さい、このお話は遠い遠い未来の物語なのです…。え、何故ですって?…我々人類は今、宇宙人に狙われるほど、お互いを信頼してはいませんから…」

このナレーションもあって、ウルトラセブンにおいて「狙われた街」は神回と呼ばれていると言われているのだが、どうだろう、実相寺が撮った映像の数々こそに意味があると、私は思うのだが。
何度見ても魅入ってしまう映像、それを撮った実相寺昭雄監督恐るべし。

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