クリープハイプの好きな歌詞を書き出していく。③


タイトル通りの記事③です。③!?
前回と同じく自己解釈の備忘録。相変わらず勝手にいろんなことを解釈してるので、ふうん、こいつはこう思ってるんだな……みたいな薄目で見てください。


愛す

「肩にかけたカバンのねじれた部分がもどかしい 何度言っても直らなかった癖だ もう元に戻してあげられなくなるんだな 自分でその手を離したくせに」

愛すは本当に純文学。
逆にもう悪口しか言えないくらい愛しい相手のしょうもない癖。何度言っても直らなかったとうんざりしながら、それを戻す時間が好きだった、そんなだめなところも丸ごとあなたのことが好きだったという120%の愛情。全部全部何もかもがもう遅いけど。
愛すと書いてぶすと読む通り、この曲は本当に天邪鬼で、大切なことをちゃんと伝えていれば違ったかもしれないのに、捻くれてねじれた愛は全部間違った方に行ってしまって。二人で一緒に歩いてた正しい時刻表からは外れてしまった。
別れようって言ったのはこの曲の主人公からだと思うけど、それは相手を嫌いになったり冷めたりしたんじゃなくて、自分のねじれに気が付いて、正しい道に送り出さなきゃいけないと思ったからその手を離したんでしょうね。
「肩にかけたカバンのねじれた部分」みたいな、直しても直しても戻らない、どうしようもないものだけが残って、正しいレールには乗れず、大好きな人を見送ることしかできなくなってしまった。
それを自覚してるのにずっと捻くれてるのがたまらなく愛おしく、そして辛い。
サビもめちゃくちゃキラーフレーズですが、音の盛り上がりも相まって何度聞いても胸がぎゅっとなるので、選ぶならここです。


「これまるで探さないでって書いた手紙じゃん」「それまるで上下巻ある本の上だけじゃん」

メジャーデビュー後に好きになった太客なので、クリープハイプで初めて聴いたアルバムが『吹き零れるほどのI、哀、愛』だったんですけど、この曲が強すぎてびっくりしたのを覚えてる。
思わせぶりでうんざりするのにその先がすごく気になる尻切れ蜻蛉な言葉の断片を、この人はこんな風に表現するのかと。
初めてクリープハイプを聴いて、尾崎世界観という人が生み出す言葉の力が強すぎてまっすぐで痛いくらいだな、と感じていた時に、空っぽの言葉に宿される意味とか、そんな中身のないものへのムカつきとか、そういう思いの片鱗を少しだけ分けてくれているような気がして、初めて聴いてからずっと大好きな曲です。
『煌めきを諦めた夜を溜息で吹き消す』ってところなんか、もう表現力化け物かと思いますね。キラキラしたものになりたかったけどなれなくて、見た目だけでもてはやされるのはもっと嫌で、当たり障りのないものばかり目につくそんな周りも自分も全部嫌。ないないづくしのいやいやづくしなんだけど、その底に残るもやもやが次の夜を生きるエネルギーにもなっている。
歌詞中に出てくる「探さないでって書いた手紙」と「本」、どちらも本来しっかり考えて書いて残すものだからこそ、「あ、」という思いが先走ってつい口から出る言葉との対比が引き立ってるな〜と勝手に思ってる。
言葉が持つ意味も、意味を持たない言葉も、言葉を扱う尾崎世界観だからこその味を持っていて、良い。
あっ、あー、あぁ、のニュアンスの違いが、意味を持たないはずなのに意味を伝えてくる気がするんですが、そうやって勝手に意味を持たせてしまう自分を見つめ直すことができる曲でもある。いつも勝手に救われてすみません。


愛のネタバレ

「だからこれでお別れ まるでネタ切れ 握り締めた手を振り払え 自分の家が自分の家すぎてやっと笑えた」

全編天才すぎ?
ネタバレのネタバレを聞けなかった人間なのでめちゃ的外れなこと言ってると思いますが見逃してもろて……
物事の『ネタバレ』に重きをおいたこの曲。物語作品に準えて愛というものが語られるわけですが、この主人公にとって”自分が“経験したこと以外は「全部ネタバレ」なんですよね、これ、多分……
”誰かの“評価をネタバレと評して己のことしか信じない、自分の命を燃やして生きているのが伝わるし、その結果選んだ行動だけが真実。その信念は「笑えないって 笑え頑張れ」「自分の家が自分の家すぎてやっと笑えた」のくだりがわかりやすい。自分が笑えることがすべてだから。
衝撃的なあのMVは、二人の関係の最後まで自分の手で持っていきたかったことの表現かなあと思うなど。
初めて出会った運命が星3.5の微妙な評価でも、この曲の主人公にとってはそれがただ一つの"真実"で、だからせめてその終わりが誰かにネタバレされないように。勝手に誰かに決めつけられないように。
でもその終わりはあっけなくて、たどり着いてしまえば、全部最初からわかってたようなことだったのかな。愛は難しいね。
言葉の端々から、結構強い曲だなと感じてます。直接励ますわけじゃないけど、お前の命はお前のものだと言ってくれるような曲で大好きですね。
この曲に限らず『だからそれは真実』の収録曲の解釈がなかなか自分の中で定まらず、それはきっと一曲一曲の持つ意味やパワーが濃く強くなっているからなんですね……さすが尾崎世界観、配布に特技作詞と書くだけありますわ。


四季

「息が見えるくらいに寒くて暗い帰り道 どうでもいい時に限って降る雪 そのときなんか急に無性に生きてて良かったと思って 意味なんてないけど涙が出た」

本当に好き……選べない……ので、一番好きな季節の冬の部分です。
冬が一番その季節が見える。どの季節も、自分の命を、心を、削って、燃やして、抱きしめて生きてるんだけど、冬が一番まっすぐでいい。
四季、曲もめちゃめちゃにいいですよね。夏から秋に切り替わる、あのちょっと陽が落ちるのが早くなって少しずつ何かの終わりに向かっていくための準備をするような『転』のメロディーが大好きで……
この曲をラブソングだと解釈したうえでの話なのですが、全体を通して、いつも一緒にいる表現はあまりないんだけど、「くしゃみの後に浮かぶあの顔」とか、「忘れてたら忘れてた分だけ思い出せるのが好き」とか、「謝ってばっかりでごめんね」とか、あ、だいすきなひとがいるんだ、と端々でわかる言葉選びがおしゃれ。「恥ずかしい冬の思い出」だって、隣に誰かがいなければ、別に泣いたって恥ずかしくないもんね。
すかさず自語り申し訳ないですが、家族以外の誰かと一緒に一年間を過ごすことでなんとなくこの歌詞の解像度が深まる気がする。恋人でも友人でもいいんですけど、季節の思い出のどこを見てもその人がいるってすごいことだよ。
「忘れてたら忘れてた分だけ思い出せるのが好き」「叩かれて干されてもまた包んで布団みたいな関係」みたいな、小突きあったり悪態をついたりした後に顔を見合わせて苦笑いして、結局ここに帰ってくるような関係性はいつだって最高なので、この曲の二人はずっとわかりづらい愛情を拗らせたまま何回も四季を過ごしてほしい。
クリープハイプの曲に限らないけど、季節の思い出系の曲でまっすぐ明るく、続いていく関係を語るのすごいなあと思ってしまう。振り返って楽しかったね、さよなら、じゃなくてこれから先も続けていくんだなあって、続くものとして描けるんだ!みたいな。
尾崎世界観は12月が嫌いらしいけど、それは冬の空気がいろいろなものを生産して、区切らせようとしてくるからなのかなと思ったりした。年月はいろんなことを重ねて続いていくものだもんね。


今今ここに君とあたし
「今今ここに君とあたし どうでもいい二人だけの話 いつもニコニコ君とあたし なんの確信もないけどね いつだって今が新しい」

ふとした本当に本当に本当にありがとう……
初めて行ったアルバムツアーが『泣きたくなるほど嬉しい日々に』のツアーだったのでめちゃくちゃ思い入れが強い曲。
本当に好き。元々太客に向けられた曲だと思ってたけどこの間のふとしたでさらに気持ち深まった。本当に大好き。
たった3分で駆け抜けるこの曲は全く新しい現代のおとぎ話で、語り継がれるためじゃなくて、もっと狭い関係性の中で大切にされる曲だと思う。
昔々あるところじゃなくて、音楽を届けるクリープハイプと受け止める太客は今まさにここに存在しているんだよ、と我々の存在を丸ごと認めてくれる最強のラブソングであり最愛のファンソングだ。
流れてきた桃を無視したって、玉手箱を開けなくたって、山じゃなくてロックフェスに芝刈りに行ったっていい。ずっとずっとこの先の未来まで続く今、ここにあなたたちと私たちがいることが一番嬉しいのだ!
一生変な村人でいるからちゃんと一生愛されてると思っててくれ。


今回は、特に脈絡なく、好きな曲の中でも言葉や物語の力強めな曲について考えてみました。ラブソングだろうが失恋ソングだろうが、向けられた感情の奔流に飲み込まれた時点で我々はその言葉の虜なのです。
こうして見ると曲にする題材が本当に多岐にわたっていて、尾崎世界観はすごく多才な人だなと再確認してしまいますね。すごいなあ。
最近はリズム重視で言葉を紡いでいるかと思いきやよく聞くとうわめちゃくちゃ感情でっかみたいな曲も多いので、パワーは強いですが聴いたり読んだりしてて楽しいです。

ではまたそのうち

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