月2つ
部屋でゲームをしていると、机の上のスマホが「ピロン」と鳴った。
ゲームを中断してスマホを開くと健太から画像付きでメッセージが届いていた。
「月2つ! 見に来い!」
メッセージのあとに続いている画像を開くと、確かに月が2つ、画面の上側と下側に映っている。なんてことはない、下側の月は海に反射しているだけだ。画像の手前側、岸壁には小さな船が2隻だけ係留してある。画像を見ればどこにいるかはすぐに特定できた。
俺は早速、家から出て自転車に乗った。健太のいる場所まではここから大体15分くらいだろう。
自転車を漕ぎ出す。ふと、夜食でも買っていこうと思いコンビニに寄った。肉まんを2つ買って再び自転車を漕ぐ。
途中、夜間工事の通行止めにぶつかった。岸壁へ行くにはこの道路と別のもう一本の道しかない。別な道の方は開かずの踏切があり、捕まれば20分は足止めを食う。踏切が閉まっていないことを祈りながら、進路をそちらに向けた。
だが祈りも虚しく、踏切は閉まっていた。カンカンカンとけたたましく鳴っている。しかたがないから踏切が開くまで待つことにした。
待てども踏切は開かない。段々と手持ち無沙汰になってきた。せっかくの肉まんもこれでは冷めてしまうだろう。
ふと、今ここで肉まんを食べてしまうのはどうだろうと思った。月2つなら、肉まん2つ。何より夜中に運動をしたものだからお腹が減ってしまった。
肉まんを食べ終わる頃にようやく踏切が開いた。ゴミをしっかり握りしめ、再び岸壁へ向かう。
到着すると、健太は岸壁でスマホをいじっていた。「よう」と声をかけると顔を上げ、「おせぇよ!」と辺りをはばからない声で言った。
「ごめんごめん。ほら、肉まん」
「まじ? サンキュー」
袋を受け取った健太は一瞬、訝しげな顔をしてから言った。
「いや、ゴミじゃん。お前食ったの?」
悲しげな顔でこちらを見ている。
それにしてもこいつは、今までずっとこの岸壁で一人でいたのだろうか。月を2つ見つけたからと言ってここまで夢中になるほどの純粋さは俺にはないと思った。
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