エレベーター

 50階建て超高層マンションの最上階の内見ができるという。高層マンションのは庶民の夢。たとえ内見だろうと気分を味わえるなら行ってみたい。

 不動産会社の担当者は私と同じくらいの年齢の女性だ。これでもかというくらいの営業スマイルを貼り付けてマンションへ案内してくれた。マンションを見上げてみると空へ向かってどこまでも伸びているかのようだ。

 セキュリティ万全のエントランスを抜け、エレベーターに乗る。
「最上階へご案内いたします」

 女性が50階のボタンを押す。エレベーターは滑らかに上昇を始めた。50階ともなると、エレベーターでどれくらいの時間がかかるだろう。

 無言の時間が流れた。担当の女性はボタンの前に立ったまま身動き一つしない。なんとなく話しかける気にもならない。私は手持ち無沙汰になってしまった。 
 だんだん足が疲れてきた。そういえばこのエレベーターはまだ一度も、途中の階で止まっていない。いくら日中とはいえ人の出入りくらいあるだろう。不思議に思いつつ、足が疲れたので壁にもたれかかる。そのまま少しだけ目を瞑るとなんとなく心地がいい気がした。

 目を瞑っていたのは10秒程度だったと思う。目を開けると女性が消えていた。せまいエレベーターの中に私一人だけが立っていた。エレベーターは相変わらず上昇を続けている。

 私は愕然とし、慌てて携帯電話の画面を見た。日付が3日前になっている。さらに、事態が飲み込めないでいる私をからかうかのように、時刻が進んだり戻ったりしている。電波も通じていないようだ。

 私はしがみつくようにエレベーターの緊急電話へ駆け寄った。だがボタンを押してもまったく通じない。緊急停止ボタンも反応しなかった。ドアを叩いて助けを呼ぶ。当然のように助けは来なかった。エレベーターはいつまでも上昇し続けた。

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