小さなおっさん

 目が覚めると駅のベンチに横たわっていた。どうやらここで一晩過ごしたらしい。昨夜は相当飲んだのだろう。2軒目の居酒屋までは覚えているがあとは記憶がない。つまりはそういうことだ。

 頭痛が酷く、身体を起こすのも億劫だ。幸い、辺りに人はいないしもうしばらく横になっていよう。

 そう思ってふと目線を下げると、顎の辺りに親指くらいの背の高さのおっさんがいた。髪は見事なバーコード、チラッと覗く頭皮は無駄にテカテカしている。黒縁メガネをかけているが、朝日がレンズで反射していてその瞳は伺えない。上半身は上品なスーツ姿、下半身は縞パンツという出で立ちが、ぷっくりと膨らんだ頬と腹が醸し出す愛嬌を帳消ししていた。正味、気持ち悪い。

 夢でも見ているのだろうか。念のため訊いてみることにした。

「なに、あんた」
「やっと起きたねぇ。こんなところで寝ちゃ駄目だよ。何かと物騒なんだからさ」

 どうやら夢ではないらしい。小さなおっさんはやれやれと首を振りながら「最近の若者はだらしない」などと一人呟いている。すごく腹立たしい。俺は少しイライラしながら、それでも好奇心には逆らえず訊ねる。

「なんでそんなちっさいの?」
「それはね…いや、てかキミ口くっさいなぁ! 勘弁してよほんと!」

 おっさんは片手で鼻をつまんでもう片方の手を大げさに左右に振る。俺はおっさんを指で弾き飛ばしてやろうと右手でデコピンの構えをする。それを見たおっさんが慌てた様子で言った。

「嘘ごめん! ゆる、許してニャン」

 俺はおっさんを指で容赦なく吹き飛ばした。指がおっさんに当たった瞬間、メキッと音がしておっさんは吐血した。彼は1mほど吹っ飛び、地面に叩きつけられた。そのままピクリとも動かなくなった。

 俺はもう一度眠ることにして目を閉じた。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?