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【アントラーズ定点観測】#3 This is Antlers. それでも痛感した成熟度の差

「この試合で勝ち点1を取れたのは大きかった」
シーズンを振り返った時にそう言いたいほど、今季のホーム開幕戦は鹿島にとって苦しい試合となった。植田直通のヘディング弾は、国内最多タイトルホルダーの矜持だろう。

第2節:試合結果


鹿島アントラーズ 1 - 1 セレッソ大阪

【得点】
〈鹿島〉
85' 植田(←名古)
〈C大阪〉
58' レオ・セアラ(←為田)

【警告】
〈鹿島〉
樋口、鈴木、関川
〈C大阪〉
香川

スタメン

鹿島は4-2-3-1、C大阪は4-1-2-3

ホーム開幕戦の相手はセレッソ大阪。今季は札幌から田中駿汰、ルーカス・フェルナンデス、川崎から登里享平を獲得。就任4年目となる小菊昭雄監督の下、昨季後半課題としていた攻撃力を高めるべく4-1-2-3の攻撃的な布陣を採用している。
ビルドアップ時は左サイドバックの登里を中盤に入れた3-2-5の形を作る。昨年左サイドバックで定着した舩木翔は、左足での正確なキックを武器に今季は左センターバックでの起用となっている。そして何より中盤と前線はJ屈指の陣容だ。足下の技術に長けたアンカー田中、ゲームメイカー香川真司、攻守のダイナモ奥埜博亮で成す中盤3枚。前線にはカピシャーバ、レオ・セアラ、フェルナンデスの外国人トリオが並ぶ。

鹿島は開幕戦から土居聖真を外し、藤井智也を抜擢した以外にスタメンの変更はしていない。

セレッソが見せつけた良質な攻撃

ゲーム開始直後こそ鹿島が主導権を握るものの、前半10分を過ぎたあたりから徐々にセレッソへ流れが傾く。
最も前半で危機一髪ともいえたのは前半23〜24分。鹿島が自陣でボールを失い、セレッソが後ろから組み立て始め鹿島の前線とボランチのスペースで香川がボールを受けたところが起点となった。右サイドから2度クロスがあげられ、特に2度目はカピシャーバにわたり決定機を迎えるもGK早川友基のビッグセーブで耐えた。この早川のビッグセーブは結果的に鹿島が1ポイントを持ち帰ることに繋がったと言えるだろう。

鹿島の絶対的守護神・早川

セレッソは攻撃時の各ポジションでの役割が非常に明確だった。

両ウイングは大外の高い位置で張り、鹿島の両サイドバックを上げさせない(ピン留め)。そして右のフェルナンデスが持てば、左のカピシャーバはボックスへ必ず入っていく。レオ・セアラは中央で起点となるべく、下がって受けたりサイドに流れたりはするものの、フィニッシュの時にはボックスへ顔を出す。奥埜は2列目から飛び出し、レオ・セアラが落ちれば、彼の空けたトップの位置へと入る。香川は比較的自由に動いてビルドアップをサポート。ライン間で受けて前を向きスイッチを入れるだけではなく、特に左SB登里が内側に絞った時には、左CBの舩木と左WGのカピシャーバを繋ぎ、鹿島の選手がマークに行けない(誰が行くか迷う)ところで受けてから逆サイドへ展開する場面もあった。そして右SBの毎熊は3-2-5の3の右CBをベースとしながら、開いて受けたり内側のレーンを走ってニアゾーンへ侵入。ボックス、その手前まで顔を出していく彼の存在によりセレッソの攻撃には厚みが増していた。

鹿島は4-2-4のような形で構えるため、3-2で前進を試みる相手に対してどうしても前では数的不利となっていた。ここにセレッソは香川やレオ・セアラも落ちていくため、マーカーの佐野や植田も迂闊についていけなかった。奪い切れたらいいが、奪えなかった時には空けたスペースをフェルナンデスや毎熊、また奥埜やカピシャーバに狙われる。全体がズルズルと下がり鹿島は防戦一方の前半になってしまった。そんな苦しい戦いを強いられたなか、フェルナンデスが負傷交代を余儀なくされたのは鹿島にとって幸運といえた。

流れを変えた「40」

ボールを持って前を向いた時のチャヴリッチはやはり相手にとって脅威だった。剛と柔を兼ね備えたストライカーの活躍は鹿島躍進には欠かせない。

前半の鹿島は相手の最終ラインの背後を狙う動きが少なかった。守備で全体が押し込まれ結果セカンドボールも拾えず、前線にはチャヴリッチ1人のみ。カウンターもなかなか打てない状況だった。ようやく保持できても、ボール保持の時間を作ろうとボールをもらいに降りてきてしまう。
鹿島にとって最もチャンスとなりかけたのは、植田のフィードを藤井がワンタッチで中にフリックし、受けた樋口が最終ラインの背後へスルーパスを出した場面。レオ・セアラ1枚で植田、関川の両CBはマークしきれないため、植田がロングフィードを前線に入れてそのセカンドボールを拾って前進していく。このシンプルなやり方こそ、鹿島が得点を取るための手段だった。

開幕戦に続き後半最初からポポヴィッチ監督は決断する。エース鈴木優磨の投入だった。セカンドストライカー、トップ下の位置に入った彼により流れは鹿島に傾いた。明らかに縦への意識が増し、ボールも収まるようになった。54分の仲間が決定機を外した場面は、植田の最終ラインへのフィードが起点だ。
チーム全体が押し上がったことで、相手にボールが渡ってもすぐに守備へと切り替えボールを奪う。コンパクトになったことで、セカンドボールの回収率も上がり、二次攻撃、三次攻撃へと繋がっていた。

苦しい時に負けないこと

鹿島に傾いていた試合の流れ。ところが一瞬の隙をセレッソに突かれてしまった。セレッソがGKキム・ジンヒョンまで下げたボールにチャヴリッチ、舩木に対して樋口がプレスかけに出ていった。舩木は落ちてきて前向きのサポートを作る奥埜へ鋭く縦パスを入れると、左SBの登里へワンタッチへ出す。この瞬間登里は完全にフリーで前進できる状態となった。この時アンカー田中の脇にいることが多かった登里が通常の左SBポジションにいたのだ。

外切りで右SHが相手の左CBへプレスをかけに行った時、右SBが相手の左SBまで出て行く。右SBが出たところには、右CBが横スライドして埋める。これがアーセナルなど欧州強豪クラブでも目にするやり方だ。しかしこれはCBとSBのアスリート能力が高いことを前提に、チームとしての守備原則を決めている故に成立している。

濃野は左WG為田にピン留めされていたがため、登里のところまでは距離が遠すぎて出られなかった。
登里は顔で逆サイドを見せながらも、鹿島ディフェンスの背後へ走る同サイドの為田を選択。一気にボックスの角まで侵入した為田はグラウンダーの折り返しを送り、レオ・セアラがゴール前で落ち着いて流し込んだ。

柴崎岳が不在のなかゲーム主将を務める植田の同点弾

ただ、先制点は許したものの試合の主導権を握り続けていたのは鹿島だった。逆にセレッソは攻撃の核であるレオ・セアラも交代を余儀なくされ、重心が後ろに下がり始め1点リードを守り切る交代カードの切り方を小菊監督もせざるを得ない状況になっていた。

迎えた85分。やはりセットプレーで鹿島は追いついた。このまま点を取れずに負けてしまうのか、そんな空気も流れ始めたなかで植田の貴重な同点弾が炸裂した。勝ち点0で終わるか、勝ち点1で終わるか、長いシーズンでこの1ポイントは大きな意味を持つことになるだろう。

課題の残る攻撃の形づくり

この試合では形作られたセレッソの攻撃を見せつけられた。ポポヴィッチ監督の志向するスタイルにはまだまだ遠い道のりになりそうだ。特に相手が戦力的に同等以上だった場合は、今節のようなシンプルな攻撃をやり続けることが良いのかもしれない。何よりも鈴木優磨、チャヴリッチという前線の強力な個をどう活かしていくかを考えるうえでの最適解は早急に見つけていきたいところ。また、左CB関川のパフォーマンスは開幕から低調で、この試合の後半に途中交代となった。佐野のCB起用は驚きもあったが、相手を押し込んでいる時には、有効なオプションのひとつにはなりそうだ。

この試合でも存在感抜群だった佐野海舟。
香川、レオ・セアラといった猛者を要所で潰していった。

次は昇格組の町田ゼルビア。黒田剛監督率いるチームはとにかく相手が嫌がることを徹底的にやってくる。相手のペースに引きずり込まれないように戦っていきたいところだ。

text by 亀石 弥都
photo by 鹿島アントラーズ公式X

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