見出し画像

【F1】コラム:ライバルに突きつけた現実。04年フェラーリを彷彿させるレッドブルの強さ〈2023年第2戦サウジアラビアGP〉

平均時速250kmを超える世界最速のストリートコース、ジェッダコーニッシュサーキット。開幕戦から2週間、バーレーンとは違った特性を持つコースで勢力図にどのような変化が起こるのかに注目が集まった。しかし期待されたほど力関係に大きな変化は見られず、むしろレッドブルの圧倒的優位性をより強調した週末となった。

チームメイトにも0.5秒近い差をつける王者だったが

体調不良で木曜のメディアセッションをキャンセルした王者、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)。そんな不調はクルマに乗れば誰もが忘れてしまうくらいの快走ぶり。フリー走行1回目から予選Q1までタイムシートのトップには彼の名前があった。Q1で2番手につけたチームメイトのセルジオ・ペレスとは0.483秒差。カレンダーで2番目に長いコースとはいえ、チームメイトにも0.5秒近い差をつけるようでは誰もフェルスタッペンに歯が立たない。ところがフジテレビで解説を務めた川井一仁氏が指摘していた不吉なジンクスに飲み込まれることになる。それは「フリー走行1回目で首位に立ったドライバーは優勝できない」というものだ。

予選Q2、アタック途中に突如パワーを失ってしまう。ドライブシャフトの破損により、99%手にしていたポールポジションの座を逃した瞬間だった。しかし15番手スタートといえど、フェルスタッペンである。ライバルとの圧倒的なペース差で追い上げることは十分に可能だった。昨年のベルギーでも彼は14番手から発進し、独走で優勝したのだから。

オーバーテイクポイントはターン1しかないが、高速コーナーとストレートでの速さを兼ね備えるRB19は着実に順位を上げていく。ランス・ストロール(アストンマーティン)のマシンストップによるSC導入時点で、フェルスタッペンはすでに4番手に浮上していた。先頭を走るペレスとの間にはフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)とジョージ・ラッセル(メルセデス)のみ。フェルスタッペンが2台の前へ出るのは時間の問題だった。レッドブルの1-2体制が築かれたレース後半、ペレス対フェルスタッペンの異次元な2台によるバトルが展開される。

ペレスがファステストラップを記録すれば、フェルスタッペンも負けじとファステストラップを記録する。アロンソとラッセルに前を塞がれた分のロスを取り戻そうとするフェルスタッペンは、時にペレスより0.4秒速いラップを刻むこともあった。2人の差は一時4秒を切ったが、またもフェルスタッペンはドライブシャフトの異常を感じとる。この瞬間、ペレスの勝利は確実なものになった。そんなリタイアの可能性も出てきた状況にあっても、フェルスタッペンはファステストラップポイントを狙った。この1点を追加したほうがランキング首位で次戦へ向かうことになるからだ。しかも今回は予選でのトラブルがなければポールポジションからスタートし勝利する可能性が非常に高かった。
〈今週末の最速は間違いなく自分だった〉
そう感じていたからこそ、2位を容易に受け入れることができなかったのではないだろうか。大抵予選15位からスタートし2位でゴールできれば100点満点に近いリカバリーだと考える。長いシーズンで見てもリタイアしてポイント0に終わることのほうが痛手だ。それでも…。ファステストラップを記録して、絶対にランキング首位だけは明け渡さない。王者のプライドが垣間見えた。

2番手はアストンマーティン。メルセデスとフェラーリはメルセデス優勢か

レッドブル2台を除けばサウジアラビアでも主役はアロンソだった。昨年カナダGP以来のフロントロウ発進からスタートで首位を奪取。フェルスタッペンに抜かれるまで2位の座を守り続けた。スタート位置が左にずれてしまったことでペナルティを喰らい、レース後にはペナルティ消化が適切に行われていなかったとのクレームがつけられ3位表彰台を奪われたに見えた。しかしスチュワードはアストンマーティンの抗議を認めアロンソの3位が復活。記念すべき通算100回目となる表彰台となった。トラブルがなければストロールもラッセルとハミルトンの間に割って入った可能性もあっただろう。バーレーンとは違う特性を持つコースでも速さを披露したアストンマーティン。2番手の実力を持っていることを十分に誇示した週末だった。

本来レッドブルの対抗馬になるはずのメルセデスとフェラーリ。アストンマーティンの後塵を拝してしいる現実にメディアも騒ぎ立てる。
「ハミルトンがフェラーリへの移籍を検討」
「フェラーリ、上級エンジニアが相次いで離脱へ」

特にフェラーリの悩みは深刻だ。フレデリック・ヴァスール代表も戸惑いを隠せない。
「予選でレッドブル(実質ペレス1台だけだが)に肉薄できるチームが、決勝であれだけ遅いなんて信じられない」
バーレーンGP後に語っていたその言葉は、サウジアラビアでもまた起きた。タイヤのデグラデーションが酷いのはタイヤに優しいとされるジェッダでも変わらなかった。最適なセットアップを見つけ出せなければ、アストンマーティン、メルセデスとも戦えない。フェラーリに突きつけられた現実はあまりにも厳しいものだ。

今季の角田裕毅は一味違う

開幕戦に続いての11位。角田裕毅(アルファタウリ)はレース後のインタビューでも悔しさを滲ませていた。ケビン・マグヌッセン(ハース)との攻防は国際映像で何度も映し出され、ツボを押さえながら走る角田の走りに唸らされたファンも多かったのではないだろうか。
残念ながらアルファタウリAT04のポテンシャルはテールエンダーに近い。昨季から続く低迷に株主から圧力を受けていることは間違いなく、フランツ・トスト代表、ジョディ・エギントンTDが責任を取らされる公算は日増しに高まっている。今季から加入したニック・デ・フリースも「昨年11月のアブダビテストから進歩がない」と訴え、マシンを乗りこなせない状況が続いている。
そんななかでも、3年目を迎えた角田裕毅にはチームリーダーとしての自覚、責任が見える。それは言動にも、レース週末全体のクラフトにも現れている。

オーストラリアでアップグレードパーツを投入予定のアルファタウリ。角田に早く報いがあることを願いたい。

text by 亀石弥都
photo by Formula 1 Official Twitter

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?