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文体の舵をとっている16(了)

〈練習問題⑩〉むごい仕打ちでもやらねばならぬ
ここまでの練習問題に対する自分の答案のなかから、長めの語り(800字以上のもの)をひとつ選び、切り詰めて半分にしよう。
※本文にはありませんが、切り詰める操作だけでなく、書き直しもOKとしています。書き直しの際は元の文章の内容や流れを変更しない、語りは明快さを保つ、印象的な部分も印象的なままに保つことを意識して実作に当たってください。

問10.(元課題第7章問3:傍観の語り手、871字→400字)
 記録係の私の位置からは二人がよく見えた。
 直前まで「久世先輩と競射に立てる!」なんて嬉しそうだった詩織ちゃんは見る影もなくガチガチだ。憧れの人と同じ場所に立つ気持ちはよくわかる。先輩が詩織ちゃんで、詩織ちゃんが私だったら同じように緊張してただろう。
 詩織ちゃんは優しく頼りになる可愛くて格好良い憧れの人……。
 でも、私より先輩のことを――、
 突然の的中音。慌ててマル印を先輩の欄に付ける。
 次は詩織ちゃんの番だ。
 詩織ちゃんの所作はいつもより固い。何度も息を吐いて脱力しようとしている。
 打ち起こし、大三、引き分け。全身で矢を引き絞る。矢が唇の高さに達し、会。
 私の中で誰かが囁く。
「負けたあの子を優しく迎えて慰めたくなぁい?」
 囁き声と同時に弦が鳴る。矢は鋭く的へ突き進み、邪な囁きを打ち払うあざやかな的中音を上げた。
 私はいたたまれない気分のまま、丁寧にマル印を付ける。
 顔を上げると嬉しそうな詩織ちゃんと目があった。


ついに最終課題である。最後の課題は今までの課題文の中から一作を選び、半分のボリュームにしろ、というもの。原稿用紙2枚の内容を薄味カルピスにすることなく1枚にしなさいということになる。
元課題の第7章問3は課題中で唯一文字数制限を超過してしまったもので、かつ百合描写と弓道のアクション描写の両立の点をご評価いただいており、それらを保ちながら課題とするのに挑みがいがあると思い選択。

主に感情面を前面に押し出して全体を整理し、動作の描写を弓道用語で圧縮するなどを試みた。
ちなみに古来より弓の弦を弾く音には魔除けの力があるとされ、祭祀の前に弦を鳴らす『鳴弦の儀』というものもあったという。本文一連の「邪な囁きを打ち払う」描写はこれをモチーフとしている。


講評覚書

・切り詰めたことにより速度感が生まれ、弓道の競技自体のテンポ感とマッチしている。
・切り詰めた形でも、以前の形でもどちらも読める。シーンの再編集が上手くいっており、元の動作などを損なうことなく描けている。印象が変わらない。→動作より心情面をより残しているので印象が変わらないのでは?
・枝葉を落とすことでより鮮明になった。
・心情描写をセリフに圧縮、湿度があって良い。「邪な囁き」の直後に打ち払う描写が入ることでアクション感が生まれた。
・問10の方がより傍観の語り手の文章に見えた。長編の中のワンシーン、視点人物が一瞬切り替わる挿話として自然。


この課題、映画大好きポンポさんで見たことあるやつだ!!

人によって編集しやすい量がある
切り詰められる=別のエピソードを入れられる
初稿は自分の読みたい! をガッツリ書く→削る!!


総集編たるまとめ記事でも触れるつもりではおりますが、隔週開催で約8ヶ月の間お世話になりました。参加者全ての方に厚く御礼申し上げます。


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