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前受家賃の収益計上時期のまとめ~法人と個人の違い~

不動産所有者が家賃収入を計上するとき「前払い家賃を売上に計上するのか?それとも、しないのか?」というのは迷う部分だと思います。この点、個人と法人では取り扱いが異なります。今回はこの個人と法人の違いに着目して、不動産賃料を前受けした場合の収入計上時期についてまとめていきたいと思います。なお、以下は私見によるところを含む点はご了承ください。

1 (結論)不動産賃貸の家賃収入の収益計上時期

以下、まずは結論です。

個人の場合
原則:支払日
例外:期間対応(前受賃料は前受金計上=収入計上しない)

法人の場合
期間対応(前受賃料は前受金計上=収入計上しない)

2 家賃収入の計上時期(個人の場合)

個人の場合、家賃収入の計上時期は、基本通達36-5に記載されています。

「原則」基本通達36-5(一部抜粋)

不動産所得の総収入金額の収入すべき時期は、契約又は慣習により支払日が定められているものについてはその支払日によるものとする。

契約により支払日が定められている場合には、その「支払日」に家賃収入を計上することになります。所得税法では、貸付期間との対応を図るのではなく、あくまでも契約による家賃の支払日に計上することが原則ということです。

「例外」直所 2-78(要約)

継続的な記帳に基づいて不動産所得の金額を計算しているなどの一定の要件に該当する場合には、その年の貸付期間に対応する賃貸料の額をその年分の総収入金額に算入することを認める

例外規定として、直所2-78で、一定の帳簿を要件に貸付期間に対応した収益計上も認められています。(直所というのは所得税の個別通達のことです)

不動産オーナーの方の不動産所得が事業的規模ではなく、収支の管理は、1年分の家賃と経費を集計表にしている程度のケースもあると思います。その場合、特に前受計上や未収計上の経理処理はしていないため、一定の要件に該当せず、上記の例外規定は適用できないです。

3 家賃収入の計上時期(法人の場合)

法人の場合については、個人と少し相違します。

収益認識の考え方については、会計上、いわゆる新収益認識基準(企業会計基準第 29 号「収益認識に関する会計基準」等)の公表を受けて、法人税も平成30年度に税制改正されました。

その税制改正後の法人税22条の2によると、「役務提供に係る収益は、役務提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する」と規定されています。

第22条の2 
役務の提供に係る収益の額は、別段の定め(前条第四項を除く。)があるものを除き、役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。

また、法人税22条の2第2項で、「近接する日」の属する事業年度の益金に算入することも可能との記載があります。

第22条の2第2項
内国法人が、役務の提供に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に 近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には、同項の規定にかかわらず、当該役務の提供に係る収益の額は、別段の定め(前条第四項を除く。)があるものを除き、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。

さらに、法人税基本通達2-1-29に「近接する日」の記載があります。

法人税基本通達2-1-29(一部抜粋)
資産の賃貸借契約に基づいて支払を受ける使用料等の額(前受けに係る額を除く。)について、当該契約又は慣習によりその支払を受けるべき日において収益計上を行っている場合には、その支払を受けるべき日は、その資産の賃貸借に係る役務の提供の日に近接する日に該当するものとして、法第22条の2第2項《収益の額》の規定を適用する。

この通達では、契約により支払いを受けるべき日に収益計上を行っている場合は、支払いを受けるべき日は、「近接する日」に該当するものとして法人税22条の2第2項の規定を適用すると記載されています。

そうすると、一見、個人の場合と同じように、前受賃料を受け取った日は、「近接する日」に該当するものではないかと考えることもできそうです。しかし、「前受に係る額を除く」と記載されているため、結局、不動産賃貸の場合は、貸付期間に対応した収益計上を行うことになると考えられます。

したがって、法人の場合は、「役務提供の日」でも「近接する日」でも、貸付期間に対応した収益計上となります。

4 具体例

例:令和3年12月末に令和4年分の年間不動産賃料を一括で受領する場合

個人の場合

「原則」:令和3年の収入
「例外」:令和4年の収入

法人の場合

令和4年の収入

となります。個人の場合は、原則通りの処理となった場合、令和3年分の確定申告において、令和4年の賃料収入のみが計上されることになると、課税所得が増加してしまいますので、合わせて以下の必要経費の見積計上が可能な規定がありますので、検討する必要があります。

(翌年以後の期間の賃貸料を一括して収受した場合の必要経費)
37-3 資産の貸付けの対価としてその年分の総収入金額に算入された賃貸料でその翌年以後の貸付期間にわたるものに係る必要経費については、その総収入金額に算入された年において生じた当該貸付けの業務に係る費用又は損失の金額とその年の翌年以後当該賃貸料に係る貸付期間が終了する日までの各年において通常生ずると見込まれる当該業務に係る費用の見積額との合計額をその総収入金額に算入された年分の必要経費に算入することができるものとする。この場合において、当該翌年以後において実際に生じた費用又は損失の金額が当該見積額と異なることとなったときは、その差額をその異なることとなった日の属する年分の必要経費又は総収入金額に算入する。


以上、最後までお読みいただきありがとうございます。

少しでも皆様のお役に立つてれば、幸いです。 


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