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夜、ネムノキを探して

(雑記)

花が咲くと木の種類がわかりやすくていい。ゆらりゆらりと揺れる薄ピンク色のネムノキが、いまのざわめく気持ちを刷毛で撫でつけるようで次第に落ち着いてくる。そこにも、ここにもネムノキ。遠く離れても、わたしは、世界は繋がっていると思わせてくれる。夜にはほんとうに眠ってしまうのか確かめに、ナイトウォッチングに出かけよう。

おぎゃあと生まれて物心ついてから、ほんの数年前まで死にたいと思わずに生きている人がこの世にいるなんて信じられなかった。そして、そう思わないことが健康であることだなんて。生まれてきてからしばらくは、命が体になじまないんだよね。だから手放したくなるんだよ。大人になるっていいことだよ。

やらなきゃいけないことがたくさんあって、気もそぞろ。あれもしてこれもして、あれ今日という日が終わりかけているのにこれっぽちも進んでないぞと、また焦る。焦って頭は沸騰寸前、きゅうっと毛根が縮こまって、はらりはらりと髪の毛が抜けていく。そんな話をしたら、センパイがガハハと笑って、その髪の毛集めて歩くわと。いっしょに笑った。髪の毛たくさん集まったら献上するから、ツバメさんよ、巣作りに使っておくれ。

思ってることあるんならはっきり言ってよと、何度も思ってきた。わたしは、それを思っても言わなかったんだけど。身の回りに、これまでのそれぞれの時代の自分を纏った人が、女性も男性も、大人も子どもも問わずいて、くすくすっと微笑ましく見守っている。否定も肯定もせず、ただ見てる。十年越しに答えを得たようで、人生はかくもおもしろい。

トリマーさんにたまたま会ったよと聞く。マルちゃん、大変だったねえと。忙しさに背中を押され、引っ張りあげられ日々を過ごしているけど、ほんとうはジタバタ泣いてしまいたい。なんでいないんだって、いやだいやだって。我慢してたけど、もういいや、泣いてやる。泣きわめいてやる。キミがいないでどうやって生きろって言うの。悲しさ全部詰め込んで、キミはいってしまったの。今日も近所には白い犬が歩いている。

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