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6がつ29にち/散文詩

「どうですか」
「うん、まあまあ、ぼちぼち、ふふふ」
そんな返答が嫌いだった。

「あんた、かしこおに生きなあかんじょ」
そう言われてもっと嫌いになった。

賢く生きるために、自分を守るために。社会と共感の接点を断つことが賢く生きることなら、バカでいいやと駆け出した。パトカーを避け、深夜の町をママチャリで走るみたいに。そんな日々を繰り返し、見た痛い目も、もちろんあった。

問いに「ううん、まあ大変でした」と答えることが、隔離されない世界に身を置くことで、それが拾い上げられてもそうでなくても、わたしは、わたしの言葉は、この広い世界に対して開かれている。その事実に心を強くする夜もあり、明けて孤独に倒れる朝もあった。

自分は連綿と続いているものではない。ときどき、ふとこの世界に、この時間軸に、あの頃のわたしがいる。キミを助けるでも、関わるでもなくただ見ている。それだけでいい。慈愛の傍観者に見られているなら、そう、孤独ではないのだから。

わたしの言葉も、この同じ世界で、拾われてもそうでなくても浮遊する。はらり、落ちる。落ちた先で、なにかになる。なににもならなくても、それでもよい。そのまやかしに今日も救われている。

生まれないことが何よりの断絶で不幸で孤独なのだと、思ってしまうわたしは、もうすこし痛い目を見たほうがいいのだろうか。就寝時間をすぎた、深夜の立体駐車場で。

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