東京日記 水は上から下に流れる


珈琲西武が歌舞伎町へ場所を移してから初めて来た。ネオン看板が光っている入り口の付近には、相変わらず長い人の列ができていた。
お店の中に入ると、エンタメ業界で働いていそうな風貌と話し方の男性が、東野圭吾の実写映画の話をしていた。「金で作品を売らない」って言葉だけが耳に残っている。
目の前に座っていた外国人2人組のうち1人は不機嫌そうな顔で栄養ドリンクを飲んでいた。喫茶店で栄養ドリンクを飲んでいる人を初めて見た。テーブルのうえにはほとんど手付かずのオムライスが並んだまま、彼女たちは店を出て、マスターがそれを片付けて行った。

これつい食べてしまう

しばらくした後、渋谷のBunkamuraに向かうためにお店を出た。こちらも道玄坂から宮下に場所を移してから初めて行った。元は渋谷TOEIがあったところで、元の内装はわからないけど、細かいところまで洗練されていて、都内一お洒落な内装になっていた。恵比寿とかにありそう。ただ、1Fのチケットカウンターはそのまま使っているのか、ガラス越しでチケットを買うタイプで、自分もそちら側だったなと思って懐かしくなった。

下はフランス版?

『悪は存在しない』13:40の回をみた。終始不穏で疲れた。疲れないほうが不思議なくらい。黒沢清の気配が強めだった。不快な人間の解像度が高すぎたな〜。終始、うっすらとした不快さと、終盤にいくにつれて得体の知れない不安感が増して行った。『ハッピーアワー』の重力のワークショップで語っていたように、この作品も「均衡」の話だと思った。こちらは、水は高いところから低いところへ流れるという重力の話とあわせて、人と自然の関係も均衡を保てなければ全てが崩壊してしまう、と語っていた。

15時45分頃に劇場を出たら、さっきまでの暑さが嘘みたいに涼しくなっていた。空は雲で覆われていて湿度が高かったけど、不思議と不快じゃなくて心地よかった。17時のバスで宮城へ帰るから、あと1時間くらいしかなくて、野村佐紀子さんの写真展を諦めようかなと思っていたけど、心地よい気温だったからか、映画の余韻からか、向かわなくちゃと思った。道中では石橋英子さんの音楽を聴いていた。

青山のギャラリーには、私を含めて3組のお客さんがいた。展示のタイトルは「Träumerei」(トロイメライ)。みんな知ってるシューマンの曲と同じだけど、あんなにメロディアスなイメージではなくて、無音に感じた。展示されていたのは2枚の異なるモチーフの写真が、上下で1枚の作品になるように合わせられているものたちだった。
数年前に福岡・下関で行われていた展示に行けなかったのがずっと心残りだったので、この機会に行けてよかった。銀座の映画館で働いていた時、バイト前にGINZA SIXの蔦屋で偶然みつけた「愛について」という写真集を立ち読みしたのがきっかけで知った野村さんの写真。それから、映画『火口のふたり』のメインビジュアルも野村さんで、公開当時に新宿のビームスで映画内で使われたスチールの展示が行われていたときも見に行った。あれ以来かと思うと5年くらいはあっという間に過ぎてしまうんだなと思う。

オシャレな巨木

17時のバスに乗って、23時10分くらいに宮城に着いた。足もむくんで、お腹も空いて、すっかり疲れ切っていた。家に帰ってシャワーを浴びてから、あったかい中華そばを煮て食べて寝た。『悪は存在しない』の作中でも、うどんを食べた後に「あったまりました」と言って、「それ味は関係ないですよね」みたいに突っ込まれてたシーン、会場で笑ってたの私と他に何人いたんだろう、渾身のボケだったはずなのに…


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