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映画『THE FABELMANS』レビュー

スピルバーグの自伝的作品と聞いて公開を心待ちにしていた作品。地味で、いささかありきたり感のある仕上がりながら、期待を裏切らず、予定調和と言ってしまえばそれまでだが、150分の長尺を全く停滞感なく安心して観とおすことができた。同世代とするのは言い過ぎだが、自分自身と10歳の差はあるものの、デビューの頃からずっとおそらく一緒に同じようなものを見て、そうした時代相に影響されつつ製作されてきたはずの、その作品群を追いかけ続けていることから生まれるシンパシーなのかも知れない。
母が体現する芸術と父により象徴されるテクノロジーにとどまらず、フィルムに焼き付けられる虚と実にまで言及した脚本が分かりやすく、語られたもの全て、素直に納得できる。カメオ出演のデヴィット・リンチ扮するジョン・フォードの地平線についての問いかけと答も映画ファンには嬉しい。長年の盟友ジョン・ウィリアムズの劇伴がいつになく繊細、静謐で、主演で母親役のミッシェル・ウィリアムズがスタンウェイで奏でるバッハを鮮やかに際立たせて胸に沁みる。佳品である。

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