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子どもたちと教育長が話していること -当事者としてチャレンジする子どもへ-

教育長の高橋洋平です。

『内外教育』で掲載されました「第3回 鎌倉教育長日記」を紹介します。(内外教育には許可をいただいています。)


5月は鎌倉市立小中学校、すべての学校・教室を訪問した。校長などから学校の様子やチャレンジについて伺いつつ、子どもたちともたくさん話すようにしている。

「教育長」という人らしいと聞き付けると、陳情する子もいる(笑)。先日は「小学校で鉛筆じゃなくて、シャープペンシルを使えるようにしてください!」と訴えられた。その子に「みんなで議論してみて、必要があれば使えるように改めてみたら?」と答えたら、きょとんとしていた。どうやら学校のルールは大人が決めるもので、自分たちでは変えられないと思っていたようだ。

ある小学校6年生の総合学習では「私たちのワクワク・モヤモヤ探究」として、それぞれで課題設定し、探究したプロジェクト型学習の発表会に立ち会った。そこではちょうど「学校でシャープペンシルを使ってはいけないのか」を探究しているグループがあった。

シャープペンシルのコストは鉛筆を下回ることをグラフで示したり、学年内にフォームでアンケートをとりニーズを分析したり、近隣の学校では使用している事実を示したり、さまざまなエビデンスを用いつつ、教員や保護者の立場にも配慮しながらシャープペンシルの優位性を提案していた。プレゼンや資料も素晴らしく、とても聞き応えのある発表だった。

社会の課題をジブンゴト化

何か壁に阻まれた時、自分たちは無力なので大人や権威に要望・陳情して変えてもらおうと考えるのではなく、自分たちで社会や地域は変えられると信じ、必要な情報を集め、仲間と協働して、行動に移すことができる子どもたちを育てたい。

別のプロジェクト型学習の前後で、子どもの意識がどう変容したかを調べた。「自分たちが動くことで地域や社会が変わっていくと思う」とする割合は38%から81%に、「SDGs(持続可能な開発目標)は遠い世界の話ではなく、自分とつながりのあるものだと感じている」割合は26%から93%に、それぞれ上昇した。一言で言うなら、探究学習を通じて社会の課題に当事者意識が生まれ、「ジブンゴト化」したのである。

鎌倉こどもミライミーティング

鎌倉市教育委員会では新しい教育大綱に向けた議論を始めている。中高生からは子ども議会や作文などで意見を聞くことも多いが、小学生とも話したいと思い、鎌倉エフエム(同市)さんとコラボして、「こどもミライミーティング」として「10年後の鎌倉の学校どうなっていてほしい?」をテーマに議論を行った。

議論の内容は絵や図形などを用いてリアルタイムにまとめるグラフィックレコーディングし、地元のアパレルメーカー、メーカーズシャツ鎌倉さんのハンカチにプリントして参加者にプレゼントした!

やがて議論が深まっていくと、「教室の場所や内容、教科を、自分で選びたい」「もっと自由に学びたい。だけど、自分に責任もある」「鎌倉の未来を作るのは僕たち」など、自分たちの社会や学びをジブンゴトとして考えるような意見が出てきた。

子どもたちと話すとき、われわれの「子ども観」が問われている。「子どもは言わなければやらない」「学びとは大人が教えるものだ」ではなく、「子どもには自ら学ぶ力がある」「子どもたちが自ら学び取るのを大人が支える」といった、子どもの主体性を信じ育む学習観にどこまで迫れるか、常に問われていると感じる。いつも葛藤があるし、簡単なことではないのだが。

(2024年6月18日『内外教育』掲載文)

※内外教育に許可をいただきnoteに掲載しています