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炭火 -生涯にわたって主体的に学び続ける-

教育長の高橋洋平です。

教育長に就任するに当たって、東京から鎌倉に移り住みました。鎌倉は海や森など自然が豊かな土地です。色とりどりの花を見て、野鳥の歌声を聞いて、春という季節が豊かに流れていくのを肌で感じています。

卒業しても「炭火」のように学ぶ

今年の鎌倉市の卒業式は、4年ぶりに来賓も招き、季節の花と歌声に包まれた素敵な式典を開催することができました。
中学校では、RADWIMPSの「正解」を生徒が選び、合唱する学校が多かったように思われます。

あぁ 答えがある問いばかりを 教わってきたよ だけど明日からは 僕だけの正解をいざ探しにゆくんだ また逢う日まで

RADWIMPS「正解」(作詞作曲・野田洋次郎)

TOKIOの「宙船」を紹介して、卒業生にエールを送る校長先生もいました。

その船を漕いでゆけ おまえの手で漕いでゆけ おまえが消えて喜ぶ者に おまえのオールをまかせるな

TOKIO「宙船」(作詞作曲・中島みゆき)

私の祝辞では、鎌倉市の小学校6年生の国語の教科書で取り上げられる宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』から一節紹介しました。

僕、もうあんな暗やみの中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んでいこう

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」

いずれの詞にも通ずるメッセージとして、学校を卒業したとしても、生涯にわたって主体的に学び続け、そして誰のものでもない自分の幸せを自らつかみ取ってほしい!という願いが込められているように思われました。

テストがあるから学ぶ、親に𠮟られるかもしれないから学ぶという外発的な動機付けは長続きせず、自らの内側から湧き上がってくるワクワクを大事にした内発的動機付けによる学びは、長続きすることが学術的にも明らかになっています(エドワード・デシ等)。

現在、鎌倉市では教育大綱の改訂に向けた議論が始まっています。さまざまな関係者と議論を重ねる中で紡ぎ出されたキーワードの一つに「炭火」があります。炭火は火を付けるまでに工夫が必要ですが、一度火が付くと、じわーっと長く燃え続けます。

子どもたちがこれから生きていく、変化が激しく不透明な時代にあっても、「炭火」のように生涯にわたって主体的に学び、自分の火を燃やし続け、誰のものでもない自分の人生を豊かなものにしてほしいと思っています。

学び続け、豊かに生きる

私は鎌倉市立第二小学校の卒業式に出席しましたが、その校歌には「学ぶ我らや 幸多し ああまこと 幸多し」という歌詞があり、学ぶ喜びに満ちていました。

われわれ教育関係者の願いはただ一つ。子どもたちに幸せになってほしいということです。ただ、われわれが懸命に仕事しようとも、子どもたちが学校を卒業した後の将来にわたって、未来の幸せを保証できるものではありません。子どもたちが主体的に学び続け、一度きりの生涯を自ら豊かなものにしていくことが必要です。

このような「炭火」のような存在になるためには、子どもたち自身が学びのハンドルを握ることが必要です。学習者の視点でいかに主体的、対話的で深い学びをつくっていけるか、われわれも探究し続けているところです。

(2024年5月21日『内外教育』掲載文 加筆)
(広報かまくら 2024年6月1日号 連載コラム 編集掲載)

※内外教育に許可をいただきnoteに掲載しています