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「おれに聞くの? 異端文学者による人生相談」を読んだ!

サンキュータツオさんが朝日新聞に書評を書いておられたので、気になった作品。

いやー、面白かった!

前書きを読んで、いったん「面白そうな人だな。しかしこの人とはちょっと感性が違いそうだな」とぱたっと本を閉じる。
ページ内におけるひらがなの割合がやや多いため、きちんと一文ずつ追わないと文意を取り損ねるタイプの文章だと感じたためだ。
30分ほど別の作業をして、本を読むモードに切り替える。

再び前書きに目を通し、目次を読み。
…ページを繰る手が止まらなかった。
そして笑ってしまった。いやはや。人間って本当に面白いな!

まず、相談者さまが面白い。

始めに「悩み」ありき。それを周囲の人に相談できないから「人生相談」するのだと思うが、本来の悩み以上に「どの人」に相談したいかという判断が、相談者様の人格をあぶりだす。
ラジオで言えばジェーン・スーさんや叶姉妹の相談コーナー。相談してくるリスナー層がまるで異なっている。はたから見たら同じ系統の恋愛相談でも、事実認識のタイプが違う属性のように思えるのだ。

今回の本では「悩みを相談したいのか? それとも華美な文章で彩って『おっ良い文章を書くな』と作家に思われたいのか? 」という相談者様が多数で面白かった。そしてそこをぐさっと刺す著者の回答がまた小気味良い。

人生相談には、正答例を提示する以外の道もある。

一見すると質問に回答していないように思えるものもあるのだが、文章全体から著者の思考が明確に伝わってくるのが、本当に面白かった。

質問者さまたちは、言葉や言葉の「定義」や現在における社会的なレッテル(無意識化に刷り込まれた共通認識など)に苦しんでいる方が多かった。
著者は「それは本当にあなた自身から生じた悩みなのか」「あなたが悩んでいることは、実は社会に押し付けられた価値観の中の判断なのではないか」と繰り返し警告してくれているように感じた。

直接的には、悩みに答えていないのかもしれない。
ただ人は悩みをかかえるとき、知れずと視野が狭くなる。凝り固まった自分の思考回路でしか物事を考えられなくなる。
「その視界だけでいいんかい」とカンテラをぶんぶん振り回して世界をチラ見させてくれる著者は、ある意味とても誠実な人だとも感じた。

『後悔しない選択をしたい』

特に好きだったのが、こちらの回答の一部。

相談者様からの質問は「(どうすれば)後悔を最小化できるでしょうか?」というもの。
現状に留まるか、それとも異なる選択肢を選択するのか。
より後悔しない選択をするために、どのような観点からどう比較すべきか。ということらしい。

対する著者の回答(前半抜粋)がこちら。

何をいっているのだろうとしばらく考えた。後悔の最小化。やっちゃったんだもーん、もしくは、やらなかったんだもーん、と明るくいう、とかですか。

「おれに聞くの? 異端文学者による人生相談」

むしろこちらが「何を書いてあるのだろう」としばらく考えましたよ!
「やっちゃったんだもーん」(現状に留まった時の最小後悔)もしくは「やらなかったんだもーん」(異なる選択肢を選択した時の最小後悔)ってことか!

笑いすぎてお腹が痛くなってしまった。
そしてそれだけ笑ったら「後悔なんてしてもしなくても結果変わらんな」と思えた不思議。ああ、私は今まで「後悔する」「後悔しない」の二極しか見えていなかったのか、と気が付く。

読み終えて思うこと

最後まで読んで、異様にカフカの「橋」を読んでみたくなったのでした。
私にとって「良い本」の条件の一つには、次に読みたくなる本をそっと指し示してくれることがある。

自分が悩んでいることは、実は自分の中でぐるぐるしているからこそ自分の思考を占めるほど大きくなってしまっただけなのかもしれない。もう少し広く視野を持ち、大きな世界の中の一部として自分を認識できたら、もう少し肩の力を抜いて今を生きていけるかもしれない。

温かい人の気持ちに触れ、また同時に次の一冊への扉を開いてくれる、そんな素敵な本でした。

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