嫌われる勇気とカマイタチ

「嫌われる勇気」を読んだのは、僕が大学を卒業する少し前のことです。

 大学生前半の頃から知っていましたが。僕は其処に、凄く現実を見せつけられて、苦しくなるような気がして。自分の弱さと向き合う準備が、まだできていないと思って、手をつかなかったのです。

 中学生の頃、「ゲド戦記」の、「影との戦い」を読んだときもそうでしたが。生きていく上で、自分の短所や、思い出したくない過去を、自分の一部として受け入れて、強くならなくてはと思っていました。

 自分の弱さとして。例えば、「本を読むのが嫌いだ」と、人に言って歩いていること。本当は、本を読むことは大好きです。本を読んで、文章を書くことも、僕は小さな頃から大好きでした。

 高校生の頃、母親に、自分が書いた小説を見せたことがありました。その頃は、書くことは好きだったのだけれど、なかなか思うように書くことができず。苦戦の末に、好きだったジブリの「紅の豚」とジャンプコミックスの「七つの大罪」をモチーフに書きあげました(正直言って、今となっては読むに堪えない代物だと、自分でも思います)。

 母親は、長い間アマチュアの小説家として、書き続けていました。僕の稚拙な小説は、かなり手酷く批評されたのを覚えています。勿論、母の批評が的を得ていたとは思います。ですが当時の僕は、それにショックを受け、誰にも作品を見せなくなりました。「本を読むのが嫌いだ」と言いふらしていたのも、真面目に努力して積み上げている様子、或いは未熟な様子を人に見せたら、バカにされるんじゃないかと思って、怖かったからです。

 と、原因論的に自己分析していたのが、以前の僕でした。まあ、他にも色々とぐちゃぐちゃ理由をつけては、憂鬱になっていました(笑)。

 さて、大学卒業が近づいて。

 恋人が初めてできて、就職が決まったとき、ようやく、自分の弱さ云々と向き合う気になりました。そして、「嫌われる勇気」を読んだ訳です。

 正直に言いますと。ごく普通のことが書かれていた、と感じました。一種、宗教じみたものも感じました。読みやすい本なので、中身の説明は割愛致しますが、二つだけ、自分にとって印象的だったことを話します。

 僕にとって、「本を読むのが嫌いだ」と言ったり、「創作物を他の人に見せない」という行動をとったりすることは。「自分の行動に対する他者からの評価を気にしている自分」や、「未熟な自分」を守るための、口実だったのだと思いました。母親に批評された云々は、僕が自分の中に作り上げた、自分から逃げる為のストーリーだったのです。

 自分の弱さ、強さ、という概念すら、アドラーが言っている「劣等感」と同じで、ただの自分の思い込みで作られた物差しに過ぎませんでした。「影との戦い」の中で、ゲドが「影」を最後のシーンで受け入れる場面を見て。僕はそれを、「弱さを受け入れたのだ」と、ずっと解釈していました。細かい部分を丹念に読んだ訳ではないので、作者のル=グウィンとはズレているかもしれませんが、「影」=「自分の闇の部分」ということではなかったのかもしれません。

 例えば、僕には「忘れっぽい」という短所があります。小・中学生の頃は、忘れ物が酷くて親や先生に毎日のように叱られていました。それは僕の「弱さ」と捉えればそうかもしれません。当時は相当に悩んでいました。でも僕は、人間関係で嫌なことがあっても直ぐに忘れてしまうので、今では組織マネジメントや教育の仕事をしています。「影」は本当は、自分の弱さを「弱さ」として拒絶したから生まれたものでした。

 最後に、カマイタチ制作の話をします。

 これは、弟が作り出したブランドです。僕には、弟のような、イラストを描いたり、ゲームプログラミングをしたりする才能はありません。どちらも、何度か挑戦してみたのですが、どうしても、作業内容を好きになれませんでした。専ら文章を書いていた方が、性にあっていました。

 だから僕は、今では日々、エッセイや小説、ストーリーをひたすら書き連ねています。弟の為では、ありません。誰かに褒められる為でも、ありません(勿論、褒められるのは嬉しいです) 。僕がやりたいからやっている、それもそうですが、少しだけ違います。

 文章を書くことは、僕にとって呼吸をするのと同じくらい、重要なことです。アドラーは「共同体感覚」と言っていたそうですが、僕はこの世界の一隅で、ひたすらに書くことができている。そして、それを読んでくれる人がいる。僕にとってその二つが、創作における至上の歓びです。

 カマイタチ制作は、これからも。自らの呼吸の為に、作品を作り続けます。

 僕らの創作がこの世界に何の意味があるのかと問われれば。

 ひとえに僕らが楽しいから。

 何が楽しいかと問われれば。

 楽しんでくれる人を見るのが、楽しいから。

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