仕事終わりの散歩

 仕事が終わってまっすぐ家には帰れない。今日一日へとへとに疲れた自分が元の自分に戻るために、暗い夜の街に紛れる。といっても、遊ぶ相手なんていないから、駅から少し離れた全国チェーンのカフェに行くだけだ。頼むのはいつもブレンドコーヒーで、一杯300円なら夕食を切り詰めればなんとかなるから。

 赤茶色の椅子とテーブルが並ぶ店内には、いつも数人の客がいる。平日のこんな時間に喫茶店にいるのは、一人になりたい若者か、誰かと話したい老人だけだ。社会のちょっとした隙間に生きている者が集まるこの空間。ここではお互い干渉しない。

 表立った社会から「お疲れさま」。明日までの夜の間の、わたしたちの空間。

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