折り紙用紙は"劣化"が起こりやすい紙である

私のこのツイートに関していろんなことを言っている人がいるようです。

私のツイート

ここに私の考えを整理して書いておきます。
言いたいことは、
コピー用紙で書道をしますか?
・パジャマでサッカーをしますか?

という、ごく当たり前のことです。

まず、「折り紙用紙で折ることを否定している」ととらえた人がいるようですが、それは違います。折り紙用紙(以下普通紙)は劣化しやすいため、作品に用いるのに適していないケースが多い、ということを言っているだけです。

順番に説明します。
まず、「遊戯としての折り紙」と「作品としての折り紙」は別物としてとらえた方が良いだろう、というのが私の意見の根幹です。内容としてはOoouch!さんのツイートが最も近いので、引用しておきます。

Ooouch!さんのツイート

「遊戯としての折り紙」をする場合は、何をどんな紙でどう折ろうが口を出す気はありません。ただし、「作品としての折り紙」として造形物を発表する際、もっとクオリティに気を遣うべきだ、というのが私の意見です。
折り紙用紙(普通紙)は一般に強度が低く、元の発言で挙げたような”劣化”が起こりやすい紙です。”劣化”は作品を評価する際にノイズになります。ノイズを取り除く努力を作家はするべきだと考えています。

努力の例としては、
・適切な紙を選択する
・しわや塗装の剥がれをつけない技術を身に着ける
・劣化が起きない折り工程を工夫する
・接着剤や針金などの補強を用いる
・前/後加工(糊引き・塗装など)を用いて質感を変える
など、多岐にわたります。その中で、適切な紙を選択するのは非常に簡単で有用です。

適切な紙を選択することによるメリットは、強度や質感の変化以外に、同じ技術力でもきれいに折ることができる、ということもあります。前述のとおり普通紙は強度が低く、劣化が起こりやすい紙です。どうしてもシワができる、破けてしまう、膨らんでしまう工程が存在します。後加工によって改善する可能性はありますが、そもそも紙を変える方が有効なケースの方が多いです。私は、普通紙で綺麗に折ることは縛りプレイなのかもしれないと考えています。

経済的な問題や保管するスペースの問題は確かにあります。ですが、折り紙は基本的に高価な道具を使用する必要がなく、原材料費も非常に安いです。折りたたみが出来るので、コンパクトに保管もできます。なのでハードルが低いはずです。
もちろん高価なものを使用すべきとは全く思いません。明らかに作品に用いるのに適切でない紙を選択し、容易に予想できる劣化を引き起こすこと、非常に低価格でハードルも低い努力すらしない現状に疑問がある、と言っています。

では、普通紙が折り紙に適していないか、というとそうじゃないケースもあります。折りやすさ・入手性・携行性・表裏の色のバリエーションなどは非常に優れており、試作やシンプルよりの作品、簡単なインサイドアウトの作品には適した紙かもしれません。
ただし、シンプルよりの作品は折り工程が簡単なケースが多く、普通紙で折っても元の発言で言ったような劣化は起こりにくいというのは考慮すべきです。

インサイドアウトの場合、裏表の色が違うという点で大きなアドバンテージがありますが、強度の問題は残りますし、裏打ちした紙の方が塗装の剥がれなどの劣化は起きにくいでしょう。また、同じ造形レベルの作品で比較した場合、一般にインサイドアウト作品の方が複雑で折り工程は多くなります。そのため、より劣化が起きやすい状態になり、普通紙で美しく折るのはより難しくなります。

もちろん、折りやその他の技術の問題で、普通紙で折った時の劣化と比べて上回る劣化が想定される場合は普通紙の方が適しているでしょう。
重ねて申し上げますが、普通紙で美しく折れる人は普通紙を選択すると良いと思います。私が言っているのはクオリティに気を使った作品づくりをある程度はしましょう、ということだけです。

適材適所。書道はコピー用紙ではなく書道紙でやるべきなのです。

私は、作品のクオリティを上げることで界隈は技術的にも魅力度的にも成長するのではないかと考えています。最近特に思うのは、韓国の若手折り紙作家(グループ
?)の作品クオリティは日本の若手達と比較して、造形面・技術面・美意識の面に関して大きく上回っていると感じます(コンプレックス作品の割合が多いのは感じますが)。彼らは質の良い紙を高い技術力によってハイクオリティに仕上げ、魅力ある作品を多数創作・発信しています。
私はこうした魅力ある作家が増えてほしい、その技術にあこがれ、学び、継承してほしい(いきたい)と考えています。

こういうことを言うと、
・自由に投稿してフィードバックをもらうことで成長する
・作品の投稿を委縮してしまい新規さんがいなくなってしまう
などの意見があると思います。
順番に説明します。

【フィードバックについて】
イラストなどの界隈では、たとえ自信がなくても描いたイラストをSNS等に投稿し、フィードバックをもらうことで成長するといわれています。要素としては、いいねの数・上級者からのアドバイスなどによって、よりいいねをもらえるよう、インパクトを与えられるよう、工夫をしていくことで成長する、ということだと思います。
詳しくは知りませんが、長く言われていることで、成功例が多くあるのでしょう。
しかし、”現状の”折り紙界隈に簡単に適用して良いものでしょうか?

現状の折り紙界隈は明らかにクローズドなコミュニティで、外部界隈に影響を与える作品や人物は一握りです。イラストの界隈と比べると規模も圧倒的に小規模で、外部からのフィードバックの数が少ないです。
作品ツイートのいいねの中身を見るといつも同じ折り紙界隈ばかりではありませんか?
そこに技術的な指摘やアドバイスをしている例がどの程度ありますか?
その中でどの程度の成長が期待できますか?


また、イラストは先駆者のおかげで書籍やサイト、講座などが充実しており、自分で学べる情報量が多いので、フィードバックに比較的迅速に反応することができます。それに対して折り紙界隈はまだまだ情報量が多くありません。紙の種類を自覚し改善するきっかけは、少数の周りの折り紙勢のみではないでしょうか?周りが作品に普通紙を使って明らかな劣化を起こしている状況をどう肯定的にとらえられるのでしょうか?
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【新規さんについて】
気軽に作品投稿できる環境を整えることで、界隈に飛び込んでくるハードルを下げ、界隈を盛り上げようという考え方はよくわかります。
前述しましたが、私は作品のクオリティを上げることで業界は技術的にも魅力度的にも成長していくと考えています。魅力的な作品たちを見て、新規さんが「私もこんな作品を作ってみたい」と思うことを期待しているわけです。言い方は悪いですが、クローズドで作品に魅力のない界隈に人が入ってきたくなるかと言ったら、微妙なところだと思います。

また、一部の折り紙界隈側の人間が、「「自分で折ったものはどんなものでも作品だ」と言うことで初心者が気軽に投稿できるようになる」という固定観念を持っているのではないかと思います。それが正しいかと言われると、疑問が残ります。
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当たり前ですが、気軽に投稿できなくなる・新規さんが遠ざかることを良しとしているわけではありません。以上二点に関しては、デメリットもよく理解しているつもりです。今回は、クオリティを意識することによるメリットがデメリットを上回ると考えているから発言をしているわけです。

クオリティに気を遣うべきとは言いましたが、なかなか難しいのもまた事実です。
私の考える特に大きな現状の課題は以下の二点です。

【アクセスできる情報が少ない】
折り紙界隈にとっての主な情報源は、折り図の載った書籍とSNSです。そのため、どうやったら上手に折れるのかといった情報がほとんどありません。使用する紙や補強方法、ましてや創作法に関する知識を知る機会が限られているのが問題かと思います。また、折り紙界隈は車輪の再発明が数多く、議論をしても継承されないケースがとても多いです。今一度、情報の共有に気を使うべきです。
数少ない有益情報の例として、神谷氏の著書『神谷流創作折り紙に挑戦!』があげられます。そのほかにもwikiの作成の話もあるようです。選択肢が増えると良いと思います。

【実際に作品を見る機会が少ない】
折り紙界隈は小規模なグループなので、連日作品がいくつも投稿されることは稀です。コロナ禍で展示会や例会が中止になっていることもあり、作品を実際に見る機会が非常に少なくなっています。高クオリティの作品を見ることで、どんな紙を使っているのか、どんな技術を使っているのか、ディテールがどうなっているのか等、有益な情報を得ることができます。
界隈の中心的な組織や人物には、作品を見る機会を創出していただきたいと考えています。


最後になりますが、「普通紙を盲目的に使うのではなく、適切な紙を選択して使用すべきだ」というのをはじめに言い出したのは、私が早稲田大学折り紙サークルW.O.L.F.で代表をしていた時です。学祭の展示会ではサークルメンバーに普通紙を使用することを避けてもらい、展示中に倒れたりしないよう補強をし、サイズも大きく作ってもらうことをお願いしました。作品をよりよく見てもらえるよう、専用の什器の作成も行いました。その結果、お越しいただいた方に“作品“を見て満足いただけたと思っています。
当然ですが、人それぞれ違ったスタンスがあるのは理解しています。結局はその人が”自分の折り紙”をどう見て欲しいのかに尽きます。ここまで読んでどう感じるかは自由ですが、折り紙作品のクオリティを考え直すきっかけになると幸いです。


私は議論を歓迎しますので、何か主張や質問があればTwitter等でコメントをいただければと思います。

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