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おウチでKAKUTAができたのは2/3  桑原裕子

さやみが泣いた夜。続き

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その夜、KAKUTAの新劇団員・吉田紗也美が電話口で話してくれたのは、おおよそこんな話でした。

毎日が不安すぎてどうしたらいかわからない。アルバイトには行く。でも一時間だけ働いたらもう帰されるような日々で、そのために電車に乗っていくのも怖い。これ以上続いたら本当に生活ができなくなる。お金のこと、生活のこと。これからの不安に潰されそうになる。今だけでも福岡に帰りたいと思うけど、お父さんや、お母さん、おばあちゃんにうつしたらどうしようと思うと帰ることもできない。

誰かに逢いたい。でも今、逢いに来てということはできない。

誰かに甘えたい。でも今、みんな大変なんだと思うと甘えちゃいけない。

劇団員と道具の受け渡しなどで一瞬顔を合わせると、それだけで凄くほっとする。でも、「もう少しいてほしい」とお願いすることはできなくて。

リモートでもみんなと顔を合わせていると元気になる。その時間のために今日を頑張ろうと思える。けど、だんだんSNSもLINEも見られなくなってきて、やらなきゃと思うのに動けない。映画を見たりゲームをしたり、そんなことをする力もわかない。ただじっと、この部屋で、一人きりで時間を過ごしている・・・

「自分が、こんなに弱い人間だとは思いませんでした」

北九州から東京へ出て一年半。25歳になるさやみは、そう言って泣くのでした。

話を聞きながら、自分が25歳の頃を思い出しました。今さやみがいる場所が、どれほど心細いところかわかった気がしました。

KAKUTAの皆さんへ

さやみとの電話を終えた後、KAKUTAのグループラインで紗也美の状況を少し説明した後に、私はみんなへ、以下のようなメッセージを送りました。

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劇団を動かし続けること。それは確かに皆を活気づける要素にもなっていたけれど、私は躍起になるあまりみんなの心情やペースを掴めなくなっていたのかもしれません。そして自分自身も、知らず知らず自分の不安をごまかしていたのかも知れません。

皆、劇団のことを頑張りたい、ちゃんとしなきゃと思うあまりに、自分の正直な今の状態を言い出せなくなっているのだと、さやみが泣いた夜に、気づきました。

ごめんね、みんな。気づかずごめん。

「人の気持ちは、誰もわかりません。
勝手に悟ることは、これだけ人数が多い劇団だと難しいです。
なんとなく空気を読んで黙ってる、怒られそうだから何も言わない、自分がしんどくても我慢する…
それはある意味楽な手段ではあるけれど、どんどん互いを遠ざけるだけで。
なんでもLINEでやりとりするのがしんどければ、その時喋れる人だけでLINE電話とかしてもいいので。どうか、口に出してほしい。
正しいことを、じゃなくていいので。
正直な、今を。
特に、今は。
桑原よりお願いでした。」

上記のような文章でLINEを送った後、すぐに新劇団員の森崎健康から電話がかかってきました。

はええよ!その時刻、深夜三時前。いやおっそいよ!

健康からも今自分が置かれている状況についていろいろと話を聞きました。

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この状態が収束した後に、自分たちは演劇を続けていられるだろうか。僕は劇団があってよかったと思うけれど、僕らの同世代でこの時期に芝居をやめてしまう人も、たくさんいるんじゃないか。その不安が、もやのように自分たちの未来を包んでいる状況。

その後も、4時半までだらだらげらげらと喋りました。真面目に話し合っていたのに最後はげらげらになっていて、健康のおかげで私の胸のなかもすこし軽くなっていました。

ほんとうの打ち明け話

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そして、翌日。劇団員から続々とグループLINEに返信が来ました。

堰を切ったようにあふれ出たそれは、本当に正直な、皆の抱える状況と想いでした。

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(文春砲みたいと異儀田に突っ込まれたスクショ)

もともと読み合わせ動画をアーカイブするための作ろうとしていたNOTE。でもむしろ、この正直な言葉たちを今の演劇人の様々な想いとしてそのまま載せてみるのはどうだろうか?元気なKAKUTAをお届けするのもいいけれど、怖かったり、不安だったりするKAKUTAの劇団員ひとりひとりの声を、飾らず載せてみるのもありじゃないだろうか。もしかしたら、同じような気持ちを抱える人たちのなかにはそういう声にほんの少しホッとするひとがいるかもしれない。私たちがそうであったように。

こうして、まずは私たちKAKUTAの、LINE上での打ち明け話をそのまま載せてみるところから、「おウチでKAKUTA」をスタートすることになりました。

というわけで、次の回ではLINE上に寄せられた劇団員の返信を少し掲載したいと思います。赤裸々な内輪のやりとりを公開するのは初めてですから、好まない人がいるかもしれません。そんな方はどうぞ読み飛ばして、今後随時公開される動画やラジオ、メンバーエッセイの方をお楽しみください。

でももしも、似たような境遇や心境におかれ、前を向くのに疲れている人がいたら、ちょっとのぞいてみてください。そして少し、ホッと息をついていただければ幸いです。

ひとりじゃないんだと。


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