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漢方の視点 - 新型コロナウイルス COVID-19

はじめに

日々、漢方薬局で相談を受けている中で、新型コロナウイルスに対する漢方薬、「清肺排毒湯(せいはいはいどくとう)」などについて、お問い合わせをいただく事が増えてきましたので、現時点で漢方薬ができることについて書いてみます。(2020年4月23日)

すでに、漢方に携わる様々な専門家の方、専門機関等でまとめている記事がありますが、私のテキストが届く方に一つの視点として、参考までにご紹介します。東洋医学の観点から書いていますので、現代医学での表現やニュアンスとは異なる点も出てきます。一刻も早い終息を願うばかりですが、みなさまが先行きを案じ、試行錯誤し頑張っている中で、何かのお役に立てればと思います。

大事なこと

まず、保健所や病院等の医療機関への連絡、相談は最優先です
最寄りの保健所などに設置される「帰国者・接触者相談センター」や、地域によっては、医師会や診療所等で相談を受け付けている場合もありますので、ご活用ください。

☆ 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
☆ 重症化しやすい方(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合
※高齢者をはじめ、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)など)がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方
☆ 上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合
(症状が4日以上続く場合は必ずご相談ください。症状には個人差がありますので、強い症状と思う場合にはすぐに相談してください。解熱剤などを飲み続けなければならない方も同様です。)

2020年5月8日 更新

その上で、緊急事態にある状況下で、視野を広げ、漢方薬や自然薬、健康食品などの活用も知っておくと、落ち着いて柔軟な対応ができるように思います。方法は必ずしも一つではありません。適切な使い方、利用方法を見つけてみてください。

漢方薬の立ち位置

今のところ、中国、香港、台湾、韓国など、日本を含めた東アジアを中心に新型コロナウイルスに対して、漢方薬を使用した一定の成果が出ているようです。使用例は、予防目的や初期対応、軽症の方の重症化を防ぐためや重症患者さんへの使用などですが、ここではまず、予防と初期対応、軽症の方やご自宅で静養される場合の服用法までにします。また、ご使用の際は、お近くの相談できる薬局、薬店や専門家の指導のもとお使いください

私も自粛のため、インターネットでポチっと買い物をし、ネットショッピングを大変便利に感じています。今後もさらに伸びていく分野ですし、それぞれの環境で仕方のないケースもあると思いますが、漢方薬は医薬品です。
また、漢方薬はご自身の身体、症状に合ったものを選ぶことが大切ですので、お困り際は相談をしてみることをおすすめします。
電話やメール、ビデオ通話での対応が可能な薬局も増えていますので、ご利用ください。みなさまにより良い形で漢方薬が届く事と、"相談できる薬局、薬店"が今後も存続していくことを願っています。

清肺排毒湯

さて、お問い合わせの多い「清肺排毒湯」ですが、新型コロナウイルスによる疾患の軽症から重症まで幅広く使える処方と言われています。
(予防に効果のある処方ではありません。)

ただ、こちらは現在、日本国内では取扱いがない処方です。なので、もし必要な場合は、21種類の生薬(麻黄・炙甘草・杏仁・生石膏・桂枝・沢瀉・猪苓・白朮・茯苓・柴胡・黄芩・姜半夏・生姜・紫苑・冬花・射干・細辛・山薬・枳実・陳皮・藿香)を決まった量で混ぜ合わせて、煎じ薬にして服用するしかありません。そこで、国内においては、他の既存の処方を組み合わせて代用するか、清肺排毒湯の目的に近い処方で代用することが現実的かと思います。

清肺排毒湯の代用品

まず、既存の処方の組み合わせというのは、先ほどあげた21種類の生薬のブレンドに近いものとして、「麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう」、「胃苓湯(いれいとう)」、「小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう」の3種を組み合わせて使うという方法があります。ただ、3つ揃えるのは少し大変かもしれません。

また、目的としては、解熱、寒気や炎症の緩和、身体に邪魔なもの(熱、寒気、湿気、ウイルスなど)を取り去る、体力回復、胃腸を整えるという様なイメージです。この目的に近いものとなると、「柴葛解肌湯(さいかつげきとう」が当てはまります。私としては、解熱作用と滋養作用を補うために、「牛黄(ごおう)」や「朝鮮人参(ちょうせんにんじん)」を加えた方が良いと思っています。また、咳がひどくなってきた時には「柴陥湯(さいかんとう)」という処方があり、代用品としてはこの辺りが有効です。
なお、お子さまも安心して使える漢方薬ですが、用量用法等は注意してください。

常備しておく場合

では、その柴葛解肌湯と牛黄、朝鮮人参ですが、ひとまず手元に2〜3日分を持っておくと便利です。柴陥湯も少し持っていると良いと思います。本来であれば、風邪のような初期症状が出て、何だか体調が疑わしい時に、医療機関に詳しい症状を伝えて、適切な処置をするのが良いのですが、今回の場合、保健所や病院からの指示を待っている間や、判断がつかない段階、お薬が届くまでの間など、どうにかしのぐ必要があります。
仮に薬局、薬店に電話などで相談した場合、すぐに配達可能であれば良いのですが、宅配便、郵送となると近所でもお届けは翌日になってしまいます。

通常の風邪のように、日々症状が変化する急性の病気の時には、変化していく症状に合わせるように、漢方薬を変えていきます。新型コロナウイルスの症状も変化のスピードがとても早く、初期対応がとても大事です。
まずは、手元にあるもので対処をし、その後は症状に合わせて適切な処置をするようにしましょう。もちろん、初期対応、その後の処置方法やお薬については専門家にお尋ねください。

漢方薬で症状が軽くなり、上手くいくケースもあると思いますが、症状が落ち着いても、他人に感染する可能性はありますので、行動には十分注意をする必要があります。

予防薬としての漢方

さて、次に予防に関してですが、ご高齢の方、持病をお持ちの方、妊産婦さんの感染予防も含めて、とても気になるところだと思います。手洗いや換気、除菌、マスク、ソーシャルディスタンスを守る、生活習慣などの対策はもちろんですが、加えて、漢方薬で何ができるかです。

東洋医学の世界に触れると「気」という言葉が出てきますが、字のごとく元気の"気"です。実は「気」と一言で言っても、いくつかの働きに分かれています。その中の一つに、護衛の"衛"(まもる)に"気"と書いて「衛気(えき)」という気があります。いわゆるバリア機能、生体防御機能です。
気は目に見えないので、なかなか実感するのが難しいかもしれませんが、漫画『ドラゴンボール』のキャラクターが力を込める時に、身体の周りに気をまといます。あのイメージです。

その衛気を弱らせないためには、気を補っておくことが大切です。いくつか気を補う漢方薬をご紹介しますと、「玉屏風散(ぎょくへいふうさん)」、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」、「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」などがあります。玉屏風散は"屏風"という字が入るよう、衛気を補い、屏風のように風(風邪)を防ぐ漢方薬です。補中益気湯は気を益して補うと書きますし、十全大補湯も「全部補う!」みたいな字面になっています。ちなみに、私は十全大補湯が身体に合っているので、毎日飲んでいます。体表面を整えておくという意味では風邪の初期に使われる「桂枝湯(けいしとう)」も良いと思います。

使わないで済むことを願って

漢方薬の良いところの一つとして、病名ではなく、症状に合わせて服用するという特徴があります。今回、このような記事を書いていますが、予防薬は別として、症状が出た時のための漢方薬は服用せずに済むことに越した事はありません。使わずに済んだ際は、期限内は捨てずに保存しておいてください。

例えば、柴葛解肌湯は発熱、寒気、関節痛など、インフルエンザのような症状の時に使うことができますし、牛黄や朝鮮人参も疲労回復に使えます。
柴陥湯は少し深い咳をする時に使うので、ご自身の判断で服用するのは難しいかもしれませんが、数回分でしたら無駄にはならないと思います。
また、予防薬の例としてあげた処方は、普段使いできる漢方薬ですので、常備薬として持っておくと便利だと思います。

最後に、しつこいようですが、予防薬にしても常備薬にしても、自己判断で服用せずに、薬局、薬店、専門家への相談、指導のもと服用するよう心がけてください。今回は代表的な漢方薬を中心にご紹介しました。ご紹介しきれなかった漢方薬や健康食品などは、またの機会にご紹介できればと思っています。また、漢方薬は貴重な天然資源を使っており、年々枯渇している生薬、使用や輸出入を禁じる生薬も増えてきています。必要な分だけお求めいただくことをお願いします。

次回は

今回は新型コロナウイルスへのアプローチとして書きましたが、次回は不安やストレスへの対処法の一つとして、以前、イベントでもお話しした漢方と香木について、まとめてみたいと思っております。
ご拝読ありがとうございました。

Kakuro

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