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コメディ映画、青春映画といえども個人の物語が国家や社会とセットで描かれるのが韓国エンタメ映画の強さ /【ネタバレ】『スウィング・キッズ』

※この感想ではネタバレに触れている部分があります

朝鮮戦争真っ只中の1951年。アメリカ軍の管理する巨済島捕虜収容所を舞台に、新しく赴任した所長が収容所の対外的イメージアップのために捕虜によるダンスチームを作ることを思いつく。そこでアメリカ軍の元タップダンサージャクソン軍曹をリーダーに、北朝鮮軍の捕虜主人公ロ・ギス、民間人で通訳の女性ヤン・パンネ、民間人捕虜で反動分子のカン・ビョンサム、栄養失調の中国人シャオパンの四人でチームを結成し、反発しながらも四人はタップダンスの練習を繰り返すのであった。

 傑作『サニー 永遠の仲間たち』のカン・ヒョンチョル監督最新作でしかも前作と同じ音楽とダンスの映画!
 前半のおチャラケた感じに「お、これはコメディだな」とホンワカ思わせておいて中盤で急転直下のシリアスの奈落に突き落とされる。
やり過ぎとも言える登場人物への容赦ない仕打ちは凄まじい。
 
 カン・ヒョンチョル監督の前作『サニー 永遠の仲間たち』はアラフォーの女性たちの高校時代の想い出とともに描かれる映画ですが、主人公が転校してきた高校では「反共防諜の標語を作る」という宿題が出されています。また女子高生たちが敵対するグループと乱闘するシーンでは街中での機動隊と民主化デモ隊との乱闘と合わせてコミカルに描かれ、デートでは道端に待機している演習中の兵士たちに冷やかされるというシーンも。舞台となる80年代後半の韓国は大統領の全斗煥が軍事政権の継続を明確に打ち出して民主化運動が激しくなった時代で、1987年6月には「六月民主抗争」と呼ばれた激しい民主化デモが全国18都市で起こっています。この民主化デモは大統領直選制などの要求を掲げており、遡れば全斗煥がクーデターで大統領になった直後の1980年に起こった光州事件から続く民主化運動でした(映画『タクシー運転手』に詳しく描かれています)。
80年代韓国の民主化闘争については漫画『沸点 ソウル・オン・ザ・ストリート』(ころから)でも詳しいです。

コメディ映画、青春映画といえども、個人の物語が国家や社会とセットで描かれるのが本作だけに限らず韓国映画の強さだなと常々思います。
 朝鮮戦争真っ只中の物語の本作では、ダンスチームの主人公たち四人それぞれがこの戦争に関わったアメリカ、韓国、北朝鮮、中国、そして民間人の象徴として描き、その四者がダンスで一つになることで戦争のない朝鮮半島という願いを描いていると思います。しかしそれを破壊してしまうのがまたイデオロギーを押し付けたアメリカというのが、もう、そこまで描いちゃいますかと。容赦ないですよ。

そんな、笑わせて、怒らせて、憤らせて、悲しませて、震わせて、泣かせて、喜ばせるといった感情の波濤をこれでもかとストーリーに入れ込み、戦争と民族分断という悲劇をやはりエンタメ作品に昇華させてしまうという潔さ、というか突き抜け方がもう、なんちゅうか、恐れ入りましたって感じです。

劇中でももっともエモーショナルなシーンは通訳の女性パンネが

「資本主義、共産主義。そんなもの知らなければ殺し合わずにすんだのに…ファッキン!イデオロギー!」

と叫ぶシーン。
まさしく韓国と北朝鮮の人々にとっての朝鮮戦争への思いを代弁した言葉。
この言葉はいま世界で韓国映画しか言えないセリフじゃないですか。
コメディタッチのダンス映画だと思って見ていたところにこんなセリフが出てくるなんて聞いてないですよ。降参です。

もちろんダンス映画的な躍動感、疾走感、高揚感も素晴らしくて、もう降参です(二度目)

そんなわけで『スウィング・キッズ』はエンタメでありながら、その時代の大国とイデオロギーの犠牲になった人々への鎮魂歌でもありますね。
もう降参です!(三度目)

鑑賞日:2020年2月23日

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K-POPグループ「EXO」のD.O.が主演を務め、タップダンスチームが人種やイデオロギーを超えてダンスで絆を深めていく姿を描いた韓国映画。日本でもリメイクされた大ヒット作「サニー 永遠の仲間たち」のカン・ヒョンチョル監督作で、ビートルズやデビッド・ボウイ、スウィングジャズのスタンダードナンバーであるベニー・グッドマンの「シング・シング・シング」など名曲の数々が物語を彩る。1951年、巨済島捕虜収容所に新しく赴任してきた所長は、対外的イメージアップのために戦争捕虜でダンスチームを結成するプロジェクトを計画する。収容所一番のトラブルメイカーであるロ・ギス、4カ国語を駆使する通訳者ヤン・パンネ、行方不明になった妻を捜す民間人捕虜のカン・ビョンサム、ダンスの実力を持ちながら栄養失調の中国人捕虜シャオパン、前職はブロードウェイタップダンサーの黒人下士官ジャクソンが集まり「スウィング・キッズ」が結成された。そんな寄せ集めダンスチームにある公演の話が舞い込む。D.O.がロ・ギス役を演じるほか、ブロードウェイミュージカルの最優秀ダンサーに授与される「アステア賞」の受賞者であるジャレッド・グライムスがジャクソン役を演じる。
公開日:2020年2月21日
2018年製作/133分/PG12/韓国
原題:Swing Kids
配給:クロックワークス


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