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やはり殺人鬼は白のブリーフが一番 /『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』

やはり殺人鬼は白のブリーフが一番。

1970年代ドイツで四人の娼婦を殺害した実在の殺人犯の日常。

『羊たちの沈黙』のヒットから始まったシリアルキラー、異常快楽殺人者という新しい犯罪者のイメージは、それまでの「恨み」や「営利目的」のような人間的な殺人動機ではなく「快楽」「趣味」といった人々の理解の埒外にあった殺人動機が世に強烈なインパクトを与えました。そして「レクター博士」のような高い教養と知識、知能、趣味人なのにシリアルキラーというダークヒーローがその後様々な作品に野火のごとく広がりました。しかし、いまやシリアルキラーは「さあゲームの始まりです」と言わせれば高い知能があるというくらい短絡的に描かれてイメージが暴落。シリアルキラーのキャラクターは消費し尽くされ、コピーのコピーのそのまたコピーで劣化してしまいました。

そこでフリッツ・ホンカです。

この殺人鬼、だらしねー。

一周回って新しいとはまさにこのこと。だらしないシリアルキラー。
まあ新しいというか、ブリーフ姿の殺人鬼なんて日本人にとっては川俣軍司以降は懐かしささえこみ上げてくる殺人鬼スタイルではあります。

酒浸りでアル中。頭の中は性欲でいっぱい。一応仕事はしているものの、毎晩風俗街にあるバー「ゴールデングローブ」で酒を溺れ、同じように酒浸りの男どもと年老いた娼婦たちも死んだ目でグラスを口にただ運び続ける。フリッツは娼婦を見つけては誘うも事故で歪んだ顔のせいで断られ、ついてくる娼婦は死んだ目をした酒浸りの老婆たち。酒を奢ると言って家に連れてきた娼婦とセックスしようとするがバカにされ、カッとなって逆上して娼婦を殺しちゃう。バラバラにした遺体を苦労して捨てに行くが、面倒になったのか部屋に隠すようになる。異臭があってもお構いなし。なんの考えも計画も用意も考えていない。ただただだらしない。

映画はドラマチックな描き方を一切せずに、ただフリッツのだらしなさを淡々と見せていく。 
だらしくて。下品で粗野で、アル中。

これは殺人鬼界での底辺を描いた映画ですよ。

昨年『テッド・バンディ』という映画ありましてね。テッド・バンディは1974年からアメリカで30人以上の女性を殺したシリアルキラーなんですが、これがめっちゃモテたんですよ。しかも裁判では弁護士も雇わず自分で弁護するほど弁が立つ。刑務所では支援者の女性と結婚までしている。いわば殺人鬼界のリア充です。
 しかも非リア充のフリッツ・ホンカと同時代。
この二人の対照的なこと。殺人鬼の格差ここに極まれりです。
結局のところ殺人鬼はモテても殺すし、モテなくても殺すのですが。
怖い、怖い、怖いですね、殺人鬼ってのは本当に怖いですね。

ということで映画では70年代ドイツという時代的背景も色濃く、被害にあった年配の女性たちが戦時中は収容所で娼婦をしていたことや、それこそ戦争を生き抜いたにもかかわらずフリッツのような人間に殺されてしまうという不条理感は、あの戦争の傷がまだまだ生々しく人々に刻まれていたことに気づかせてくれます(強引なまとめ)。

鑑賞日:2020年2月27日

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「ソウル・キッチン」「女は二度決断する」のファティ・アキン監督が、1970年代のドイツ・ハンブルクに実在した5年間で4人の娼婦を殺害した連続殺人犯の日常を淡々と描いたサスペンスホラー。第2次世界大戦前に生まれ、敗戦後のドイツで幼少期を過ごしたフリッツ・ホンカ。彼はハンブルクにある安アパートの屋根裏部屋に暮らし、夜になると寂しい男と女が集まるバー「ゴールデン・グローブ」に足繁く通い、カウンターで酒をあおっていた。フリッツがカウンターに座る女に声をかけても、鼻が曲がり、歯がボロボロな容姿のフリッツを相手にする女はいなかった。フリッツは誰の目から見ても無害そうに見える男だった。そんなフリッツだったが、彼が店で出会った娼婦を次々と家に招き入れ、「ある行為」に及んでいたことに、常連客の誰ひとりも気づいておらず……。2019年・第69回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品作品。
公開日:2020年2月14日
2019年製作/110分/R15+/ドイツ・フランス合作
原題:Der Goldene Handschuh
配給:ビターズ・エン ド



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