うずくはなし

PCで顔が見えない上司がふいに鼻歌を歌ったのでびっくりした。風のようにぴゅるると一瞬だったけれど、それは確実に鼻歌だった。ご機嫌のようだ。いつもむすり顔で表情が硬く、正面きって話すと白目になり、部内のチャットではキティちゃんの絵文字(手作り)をよく使う、とにかくキャラがとっ散らかってる人で私は強烈に苦手だ。

なので本当はPCで顔が見えない、というよりも顔が見えないようにPCの高さと角度を調整した賜物なのだ。

今の職場はとにかく穏やかだ。夜眠る前も朝起きてからも行きたくない~とベットに倒れ込むこともないし、休みの日に誰かと笑っているのに仕事を思い出してオェっとなることもない。家から近いので朝もゆっくりできるし、コーヒーもお茶も飲み放題だ。お昼には広い休憩室で遠くの富士山を眺めて夢うつつだし、おじさまとお姉さまばかりで無意味なマウンティングも始まらない。苦手な上司は隠すまで。完膚なき平和を嚙みしめる。

なのに。

私はうずいてしまう。

いつもやりたいことが有り過ぎる。出来ないとか不可能とか諦めるとかが想像できなくて。やるかやらないかのどちらかだろうと思っている、いつだって。

平和とか平穏とかよりも、刺激が欲しい波乱ジャンキー。コーヒーとか家が近いとか富士山とか。本当はどうでもよくないか。

気づいたらもう次を見据えて動いている。

顔が見えない上司の規則正しいタイピングが聞こえる。

とっ散らかっているのはいつも私の方だ。



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