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なぜ皆マッチングアプリを「友達にすすめられて始めた」と言うのかー「自然な出会い」幻想とアプリ婚の現状

夫とは2018年の7月にマッチングアプリ「pairs」で出会ったのだが、アプリ利用中に他のユーザーのプロフィールで気になっていることがあった。

友達にすすめられて始めました」という文言にたくさん遭遇するのだ。プロフィールの一番目立つところに書いている人も多い。

この文言を多くの人がどうしても書きたくなってしまうのはなぜなのか?という疑問から、「現代日本に蔓延る『自然な出会い』幻想がアプリユーザーに後ろめたさを与えているのではないか?」という観点で、データと実体験を織り交ぜながらアプリでの出会い・結婚について書いてみる。

マッチングアプリ利用には抵抗感がある?

周囲の人になれそめを話すと、「アプリ使うのって抵抗なかったの…?」と聞かれることが多い。

「抵抗」には二種類あると思われる。一つ目は、オンラインでの出会いであることで、相手の素性がわからず、危険が伴うのではないかという恐れ。かつての「出会い系」のイメージが強く、いわゆるヤリモクやサクラ、マルチ商法関係者が一定数混ざっているんじゃないか、という印象があると思うし、これは事実でもある。

二つ目は、婚活サービス全般にあてはまるものだが、出会いが「自然」でないことへの拒絶反応だと思う。

やっぱり同級生とか同僚とかと自然な感じで出会いたいじゃん…
婚活サービス使うと「そこまでして出会いたいの?」って思われそうじゃん…

すなわち、アプリを含めた婚活サービス利用への抵抗感は、

①職場や学校などでの「自然な出会い」から交際・結婚するのが普通
  ↓
②「自然な出会い」での交際・結婚ができないということは、「モテない」すなわち異性に対する魅力が低いことを意味してしまう
  ↓
③婚活サービスでの出会いを求めることは、交際・結婚への意欲が高いのに「自然な出会い」がない、すなわち異性に対する魅力が低いことを裏付けてしまう

というような感情を背景にしているものだと思う。
まあ、わかる。

実際、ユーザーに対して、「結婚に対して焦っている」「勇気ある」というイメージを持つ人が大半だという調査結果が出ている。

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※婚活実態調査2019(リクルートブライダル総研調べ)
 上段:婚活サービス利用経験者、下段:婚活サービス利用非経験者

結果的に、婚活サービスを利用していることや、出会いのきっかけが婚活サービスであることを周囲に言いづらい、という現象が起きる。職場や学校で出会ったカップルに対して、「出会ったきっかけを親や友人に堂々と言えた」割合は大幅に低い。

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※自律的出会いの提言レポート2017(リクルートブライダル総研調べ)

「友達からのすすめ」を強調したくなるのはなぜ?

冒頭に紹介した「友達にすすめられたので始めました」の定型文に戻る。

まず、実態として、周囲の友人をきっかけにアプリを使っている人は多い。婚活サービスを利用している友人がいると、自分自身も利用する確率が4倍になる。

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※自律的出会いの提言レポート2017(リクルートブライダル総研調べ)


わたし自身も、マッチングアプリの猛者の友人がいたことをきっかけに利用した。もともと仲が良く人間的にも非常にちゃんとした友人がヘビーユーザーだったおかげで、アプリ利用に対する「危ない」「イケてない人が使う」というネガティブイメージを払拭することができていた。

一方で、実態として友達きっかけで使い始めることと、それをプロフィールに書くことはまた別の話である。

マッチングアプリの利用戦略においてプロフィールの内容や表現はめちゃめちゃ重要で、いろんなブログで書き方が指南されている。長すぎはNGなので、必要な情報だけを効果的に盛り込む必要があるが、この定型文から読み手に与えたいイメージ、伝えたいメッセージは何なのか?

自覚的かはさておき、ここには「友達にすすめられたから始めたのだ」、すなわち「友達のすすめがなければ始めなかった」というメッセージが込められていると推測される。

①職場や学校などでの「自然な出会い」から交際・結婚するのが普通
  ↓
②「自然な出会い」での交際・結婚ができないということは、「モテない」すなわち異性的魅力が低いことを意味してしまう
  ↓
③婚活サービスでの出会いを求めることは、交際・結婚への意欲が高いのに「自然な出会い」がない、すなわち異性的魅力が低いことを裏付けてしまう

②から③の流れを認めたくない、「別に魅力が低いわけではなく、交際・結婚への意欲がそこまで高くなかったのだ」と、何らかの言い訳をしたいのではないか、と読み取れてしまう。

別にこれを記載している個別ユーザーを批判したいのではなく、多くの人が記載しているという現状から言えることは、それほどにアプリで出会う=本流ではなく恥ずかしい、という価値観が浸透しているということだ。

じゃあ本当に、自然な出会いがGoodでNormalでNaturalなもので、アプリはその逆なのか?というところを検証していきたい。

「マッチングアプリ婚」はもはやメジャー

まずは、アプリ婚の実態からデータで見ていくと、ここ数年で結婚したカップルの出会いのきっかけとして、マッチングアプリはそこそこメジャーなものになっている。2018年でいうと、結婚したカップルのうち7.4%、すなわち13.5組に1組がネット系婚活サービスで出会っている。

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※婚活実態調査2019(リクルートブライダル総研調べ)


また、2019年の調査にて、マッチングアプリ・結婚相談所・婚活パーティーなどのいずれかの婚活サービス利用経験がある人は23.5%となっており、約4人に1人が婚活サービス利用経験があり、2017年から1.5倍ほどに増えている。

アメリカでは2010年の時点でマッチングアプリでの結婚が17%を占めており、日本でもまだまだ増える可能性が高いだろう。

③婚活サービスでの出会いを求めることは、交際・結婚への意欲が高いのに「自然な出会い」がない、すなわち異性的魅力が低いことを裏付けてしまう

というイメージに関しては、もはや出会いに困った一部の人だけがこそこそ使うニッチなサービスでは無くなってきていると言える。

意外と難しい「自然な出会い」

では根本の「自然な出会い」へのポジティブイメージについて。

①職場や学校などでの「自然な出会い」から交際・結婚するのが普通

そもそも「自然な出会い」って「普通」なのだろうか?

まず、多くの人が「自然な出会い」を理想としていることは事実である。「仕事を通じて」「学校やサークルで」「街なかや旅先で」「幼馴染・隣人」を典型的な自然っぽい出会いだとすると、それらを結婚相手と出会うきっかけの理想とする人が8割弱を占める。

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※「恋愛・結婚調査2017」(リクルートブライダル総研)より


では、実態と比較するとどうなのか?

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※単位:% 
「恋愛・結婚調査2017」「恋愛・結婚調査2019」(リクルートブライダル総研)より


上4つのいわゆる「自然な出会い」が占めるのは、理想に対して実態の比率が低くなっている。それに対して、合コンを含めた友人からの紹介や婚活サービスで結婚している人は、実態のほうが大幅に多くなっているし、全体の4割近くを占めている。

また、0.7%しか実現させていない幼馴染との結婚をその9倍の人が理想に掲げている。これは完全に少女マンガの影響だろう。

すなわち、「自然な出会い」での結婚は思ったより少ないのだ。

出会いのきっかけなんてなんでもいい

わたしは夫と出会ってから人生がハッピーになったので、出会わせてくれたpairsにも、すすめてくれた友人にも、さらにはマッチングアプリというテクノロジー自体にもとても感謝している。

アプリを使っていたことに後ろめたさもないし、夫と実際に会った友人に「アプリでこんなちゃんとした人に出会えるんだねー!」と言われると内心ドヤ顔である。しかし、わたしの母親は「アプリで出会った」事実に当初は相当な拒否反応を示していたし、今も親族には言いたくなさそうだ。

アプリを使うことも、それを通じて結婚することも、別に隠すようなことじゃない。出会いのきっかけに優劣はない。誇るべきは、パートナーと自然でおしゃれな出会い方をしたかじゃなくて、いま現在パートナーと良好な関係を築けているかどうかである。

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