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BC25「もめ事に対処する方法 」

もめ事って嫌ですよね。僕も本当に嫌です。いつも「もめ事がない世界に行きたい」って心底願っています。今回はそんなもめ事への対処方法です。

僕がいつもプロデューサーという仕事をしていて、大事なことは、
「もめ事を起こさない。」
ではなく、
「もめ事を起こしても、もめない。」
だと、思うのです。

仕事を普段行っていると、会社の上司だったり、さらに上の上司だったり、関係部署の人だったり、常に周りの人々が言うのは、「もめ事を起こすな!」です。ですが仕事をしていると、大なり小なり、常に『もめ事』は起こります。では、なぜ僕らは『もめ事』を起こすのでしょうか?


テレビの番組制作でいうと、多分、ギリギリの所の演出を、ギリギリまで突き詰めて、おもしろくしようと、挑戦しているからなのです。
皆さんも、テレビ見ていておもしろいって感じるところは、例えば「この人、ここまでしゃべっていいの!」とか「こんなビッグスターが、こんな役やってる!」とか「よく、ここまで取材できたな!」とか「金かけてるなあ!」とか「マジけんかしてるぞ」とか「よく痩せたな、凄い役者魂」とか通常以上にギリギリを突いている所だと思うのです。
笑いでも感動でも、バラエティーでもドラマでもドキュメントでも、絶対、そんな“キモい”ところを突くから、おもしろいわけです。


ですので、当然先方の“キモい”ところを突くですから、先方とのトラブルの可能性は、
「キモきゃキモい程、キモい!」
わけです。つまり攻めれば攻めるほどそれに比例して、トラブル率は高くなるわけです。トラブルにならないように、先方が嫌だって言うところを、表現しないように演出を変えたり、放送でカットすれば、当然トラブルはなくなりますが、それだと凡庸な内容に堕してしまうこともあります。


ということは、どんな企画であれ、おもしろいことを実現させるためには、多かれ少なかれ、『もめ事』を覚悟するしかないわけです。

その前提に立って僕らができることは、あとは『程度』の問題です。つまり物事が『崩壊しない程度』くらいで、もめ事を収縮させる必要があるわけなのです。
そして、この『崩壊しない程度』というのの『程度』がまさに難しいです。この『さじ加減』には当然“正解”なんてものがあるわけもないですし、当然マニュアルも存在しません。もめ事が起こったとき、一番物言うのは交渉責任者の『人間性』だと思います。だから、その交渉する責任者は非常にセンシティブな判断を迫られるわけで、精神的に追い詰められても負けない“体力”も必要で、本当に精神的身体的に困難な仕事だと思うわけです。


だからといって、交渉者自身や交渉者の上司などの責任者(テレビ番組だとプロデューサーや審査部門)が、はなから『もめ事起こすな!』と現場(テレビ番組だとディレクターやAD)に言いすぎると作業が萎縮してしまい、もうそれだけで作品が、「もめ事が実際は起きてないのに、つまらなくなってしまう」のではないでしょうか?いや、少なくとも、「おもしろくなる『可能性』を減らしてる」んではないでしょうか?


僕はそんな自体をもめ事が起こること以上に危惧するわけです。
実際、最近この国の社会や会社において、コンプライアンスが、過度と言えるほど叫ばれています。例えばCMには、「これはCM上の演出です」とか表記されますし、ショッピング番組では「あくまで個人の感想です」みたいな表記スーパーが、隅に小さく入っています。

この量が年々多くなっているのです。

よく製品の効果をうたった映像、例えばダイエット食品等では昔からスーパーは入っていて、その注意表記は当然必要だとおもうのですが、先日たまたま見た番組では、ある食品をタレントが美味しそうに食べて「おいしい!」って叫んでいるところに、「あくまで個人の感想です」とスーパーされていました。
「おいおい、『おいしい!』は個人の感想に決まってるじゃん!」
「『おいしい』まで表記するならば、もう全ての個人の感想に『個人の感想です』と表記しなければならなくなるぞ!」

そんな、笑い話のような方向に表現の世界は本当に向かっているわけです。

それも、多分制作者側の自主的な過度のリスク回避です。「この表記を入れとけば、クレームがきても対処できるから。」という防衛意識です。
でも、そのスタンスが増していけば、やがて表現そのもの自体も、抑制されていくことになり(実際すでに抑制されて来ていますが)、作品がどんどんつまらなくなっていくのです。
僕は、それがどうしても我慢できないのです。

今や日本ではテレビだけでなくあらゆる会社や組織でいちいち戦々恐々しすぎて、日々『もめ事起こすな!』の嵐です。それが、最近の日本の『閉塞感』に拍車を掛けてると思います。

しかしですね、例えば工場の生産ラインでも、一万個製品作れば、必ず何個かは不良品が発生してしまうわけです。多分どんな物作りでも、すごく慎重に気をくばってもその可能性はある!と思うわけです。テレビ番組だってほぼ毎週休まず作り続けてるわけですから、『もめ事起こすな!』って言っても『もめ事は起こる』わけです、絶対。もう絶対、ある確率で『もめ事は起こる』のです!

ならば、僕たちが取るべき正しいスタンスは、『もめ事起こすな!』ではなく『もめ事起こしても、もめるな!』だと気付いたのです。『もめ事』が起こる前から、萎縮するわけではなく、“おもしろいこと”や“楽しいこと”を常に一生懸命考え、もし『もめ事』起こったら『崩壊』しないように、全力で誠心誠意『もめ事』に対処する!『もめ事』に対処するのは、本当に疲れます。でも、これしかない!良い作品をつくるためには、もうこれしかない!僕らのできることは、もう本当に、これしかないわけです。

では実際に『もめ事』が起こった時、僕たちはどう対処すればいいのか?

先ほど言ったようにもめ事は種々あり、当然それぞれの対処方法のマニュアルなんてないと思います。もめ事が起こったら普通はそれが大きくならないようにボヤのうちに火消しにまわると思います。しかし、実はそんなもめ事の対処方法は違うのかなと、僕は思っていて、僕は、そんなもめ事が起こった時やもめ事が起こりそうな時に先方と交渉する際に、先輩のプロデューサーが以前行った交渉を思い出すのです。

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