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今年学びたいこと、それは教えること

この文章は、國學院大學とnoteで開催するコラボ特集の寄稿作品として國學院大學の依頼により書いたものです。

バラエティプロデューサーの私、角田陽一郎が2024年に「学びたいこと」、それは「教えること」です。
学びたいことが教えることだというのはちょっと矛盾している気がしますが、順を追って説明します。

1994年にTBSテレビに入社して主にバラエティ番組のディレクター/プロデューサーとして『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など数々のバラエティ番組を制作する傍ら、2009年にはネット動画配信会社goomoを設立し、さらに映画『げんげ』監督、音楽フェスティバル開催、アプリ制作、舞台演出、その他多種多様なメディアビジネスをプロデュースしてきました。そして2016年にはTBSを退社して、バラエティ番組の枠を超えてバラエティ(さまざま)な分野でクリエイティブしていくバラエティプロデューサーという肩書きで現在活動しています。つまり今年でちょうど30年、エンターテイメントに携わって来たことになります。

一方で2019年より東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学修士課程/博士課程に在籍し、文化資源学研究者として、テレビのバラエティ番組を主軸に、そこから発展してメディア・マスコミュニケーション・エンターテイメントの研究を行っています。番組制作を仕事として30年真摯にやってきた、あるいはとても楽しく現場を経験してきたという自分の人生の来歴を超えて、バラエティ番組が、特に日本の文化の中で20世紀後半から21世紀を超えて、特殊な変化、発展を遂げていったこと、さらにそれがどのような文化的意図、文化資源的な価値があるかということを解析したく、2019年より研究対象としています。つまり自分が人生の中で、仕事の中で、インプットしてきた学んだことを、今度は研究対象として、アウトプットしようと学術論文を執筆中なのです。

修士論文ではプロデューサーとディレクターの違い、つまり制作と演出とは具体的にどのように違うのかということを『バラエティ番組の制作システムから検証するテレビの演出効果』 というテーマで2021年に発表しました。そして現在博士課程におりまして、『メディアプロデュースの構造とエンターテイメントビジネスの変化』というテーマで博士論文を執筆中です。メディアの変化、特に2000年代からの、①生活の多様化、②ネットの発展、③制作技術の簡素化が進んで、それがメディアとエンターテイメントの制作スタイルやビジネス構造を激変させています。

例えばテレビ現場での1番の変化は③の撮影・配信機材の簡素化だと思うんですね。今まででしたら、高額なプロ機材を使わないと放送できなかったものが、今や②のYouTubeなどで、①の多様化した個人が 1人で放送と同じようなクオリティの配信ができるようになりました。つまり、その3つの変化という中で、バラエティ番組というものがどのように展開していったのか、それを詳らかにしたいと考えています。

・・・といった具合にバラエティプロデュースという仕事と、文化資源学という研究の両軸で生きているわけですが、そうこうしているうちに自分もいい年になり、新たな軸が必要なんだと最近感じるようになりました。それはつまり、自分が結局学問をしているのは、自分の中での根源的欲求、知的好奇心を満たすためということだったのですが、その知的好奇心を満たすことだけで、果たして本当に学んでいるのだろうか?と考えるようになったからなのです。

最近(2023年末)、メディアアーティストの落合陽一さんが出演する番組『未来をつくるTV』をベネッセと一緒に制作したのですが、その番組制作の最中に、テレビ制作の現場というのは(自分で言うのもなんですが)圧倒的に取り回しが上手いということを再認識したのです。テレビ制作過程では、大きなコンセプト作成から、微細な出演者のお茶の用意まで、大小様々な仕事や要件や交渉があります。それを短期間に一斉に、微細漏れずに、迅速に処理する必要があります。そんな大小細々なことを私は誰よりも早く気づき、思考し、交渉し、実行することが実際の制作現場でできるのでした。つまり制作現場では角田無双の状態でした(笑)。改めて考えれば、私は2000本近い番組を30年で作ってきました。それが容易いのなんて当たり前なのかもしれませんが。
そのテレビ制作の上手さを久々のテレビ現場で感じ、いろんなコンテンツをバラエティに作ってはいても、やっぱり私は本質的にはテレビマンなんだって昨年末に1人で思い直していたのですが、ちょうどその時分、ある知り合いから質問されたのです。
「その角田さんの無双なテレビ制作能力は 誰か後進に伝授されているのでしょうか?」

・・・そう問われた時に、呆然としてしまったのです。当然、TBS時代には後輩の指導やノウハウの伝授をしていたつもりですが、特に7年前から組織を離れ、フリーランスになってからは、自分の知的好奇心を満たすように、ビジネスも学問もプライベートもそれこそ邁進していました。

しかし、自分の知的好奇心を満たすということは、つまり言い換えれば、自分勝手な行為なのです。自分がやりたいことをやる、知りたいことを知る、行きたいところに行く。そういうスタンスでやってきたのですが、そのやり方を突き詰めていても、それだけでは、自分の知的好奇心がある1つの壁を越えないことに、そう問われてみて初めて気づいたのでした。それはつまり、自分の知的好奇心の赴くままに学んでいたこと、つまりそれはインプットですが、インプットした経験そのものも上手に相手にアウトプットしなければ自分の知的好奇心もさらに上段に行けないんだと痛感したことなのです。

実際、20冊近くの本を出している自分としては、アウトプットを怠っているわけではありません。でも、そのアウトプットは、あくまで自分の中での本を書くという知的作業の中での知的好奇心の満足のためでした。

特に一昨年から様々な大学で『メディア論』や『コンテンツ論』を教え始めたりしている中で、これからの世界を作っていく、日本を発展させていく若い人たちに、実際自分が学んできたテレビ制作のノウハウや自分の知的好奇心自体を講義する際にも、「教えるということの難しさ」「教えるということの楽しさ」の本質を私は学んでいたのです。つまり、学びというのは、誰かに教えられる行為以上に、「教育」=誰かに教えるという行為であって、その「教育」という「学び」は実はそれこそ1番の知的好奇心の発露なのではないかと確信したわけです。

なので、2024年に自分がもっと本格的にチャレンジしたいことは、まさに「教育」という「教え育むという学び」です。教える=エデュケーションという行為は、それこそエンターテイメントにもっと融合できますし、それこそ育むための教育エンターテイメントをコンテンツにするためには、制作produceと演出directionというメディアの構造を捉えることが必要です。自分の今までの制作/演出の無双を、教育現場にも投入・応用できるのではないか?と夢想しています。

バラエティプロデュースというビジネス軸、文化資源学研究者という研究軸、それに加えて、新たにエンターテイメントとエデュケーションを融合させるという教育軸を、自分の中に構成する端緒につく年、それが2024年です。教えること自体はまだまだ勉強中ですが、今年は本格的に「教えることを学びたい」と考えています。

#今年学びたいこと
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