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#016 本屋、棚づくりについて物思う

Radiotalk『架空の本屋ラジオ
#016 本屋、棚づくりについて物思う

『架空の本屋ラジオ』、第16回、引き続きお届けいたします。
いらっしゃいませ、ごきげんよう、えまこです。
15回を収録したばっかりですが、もう一個ちょっとお話ししてみたいことがあって。

時間的に今18時前、夕方の18時前なんですけど。
今日はアニメの『忍たま乱太郎』の新学期が始まる日なので、それまでちょっと今わくわくして待ってる、待機中なんですよね、はい。
ちょっとうずうずしているので(笑 
それを紛らわすためにしゃべっています、が、16回の話題はもうちょっと、硬めです。
全然マンガ関係ないやつ。

本屋の、棚づくりの話をします。

これ、専門用語ってほどじゃないんですけど、書店員じゃないと通じない意味っていうのがあるらしいんですよね。
それは全然書店の仕事に関わったことのないお友達に聞かれて判明したんですけど。
棚づくりをする、とかっていう話をしたときに、「えーっ、本屋さんって棚も自分で作ってるんですね!」って言われたことがあるんです。
いえ、そうではなくて……
『棚をつくる』っていうのは、本屋が自分らの仕事のことを指して言うときには、棚のラインナップを整理するとか、面白い並びにしてみるとか、そういう感じのことを言います。
内容を充実させるような仕事のことを『棚を作る』っていうんですね。
なので、決して木材なり金属材なりを組み立てて本棚を作成するという意味ではありません。
あしからずご了承ください。

もう何回かお話ししているんですが、今の本屋さんで私が担当している棚っていうのが『政治・経済』と『自己啓発』です。
これが、自己啓発のほうの棚っていうのは、わりと本を揃えやすかったんです。
私が担当したときに、かなりどっちのジャンルの棚もすかすかで本が足りてなかったのでいろいろ注文をしてるんですけど、自己啓発の本って見つけやすいんですよ。
自己啓発っていうタイトルというかジャンル名の中に、いろんな細かいジャンルを含めていきやすいというか。
おんなじ自己啓発でも、ビジネス系の仕事術っぽい話もあれば、スピリチュアルな話もある。
で、仕事術ってなると、たとえばマナーの話とか、メモの取り方の話とか、時間の使い方、本の読み方……とかそういうものも、一応自己啓発の中に含めても、まぁよかろう、っていう感じなんですね。
スピリチュアル系だと、心の整理の仕方、考え方、思考術とか。
気の持ちようみたいな話から、ちょっと神様に相談する系みたいなのとか。
『心を強く持つ』っていうのが神頼み方面にちょっと入ってるような話、そういうのも自己啓発に一応入れて大丈夫です、うちのお店の場合は、ですね。
そこからたとえば、お部屋の整理とか……部屋の乱れは心の乱れですみたいなところ、そういう発想から自己啓にこういうのも含めていいんですけど。

ジャンル分けは一応、お店お店でしてはいるんですけれども、その内容はカッチリと分けられる『この本は確実にこっちのジャンルです』『この本は違います』っていうようなことじゃなくて、中で緩やかにグラデーションをしてはいるんですよね。
だからお店ごとにジャンルの呼び方・名前も違うし、同じ本でもこっちの棚に入れるお店もあれば、あっちの棚に含めるお店もあるっていうので、千差万別だと思います。

なので、そういう『棚づくり』はお店の個性と呼んでいいでしょう、と思います。
それが面白いんですよね。
棚に注目して、ここのお店は面白いぞって思ったら、棚づくりのセンスの合う担当者さんがそのお店にはいらっしゃると思っていいでしょうね。
またそれましたけど。

自己啓発の棚はそういうふうに、けっこう柔軟にいろんなものを含めていくことができて。
いろいろと注文してだいぶ充実してきました。

で、難しいのが『政治・経済』のほうですね。
政経は……困ったなぁ……
国会を見てみようみたいな話とか、選挙の話とかから、世界史・日本史・近代史、世界の偉人の話とかも、いろいろですね。
こっちも含めることのできる細かいジャンルっていうのはいっぱいあるんです。
あるんですけど、自分の得意分野でないってことがかなり効いていて、なかなか難しい。

そのジャンルに適う本であればなんでも入れていいっていうことでもなくて、やっぱりそのお店のお客さん層に合わせたものであるべきですよね。
売り上げ立てなきゃいけないんですから。
うちの店そこゆるいらしいですけどね……

でも入社してまだ一か月ちょっとで、いますごく閑な時期らしい、お客さんあんまり来ないんですよね。
ってなると、闇雲に本棚の隙間を埋めていくことはできるけれど、それがうちのお客さん層に合ってるものかどうか、お好みに合ってるものかどうかっていうことまではちょっと実証されてこない。
売り上げで結果を見ることができません。
今なかなか難儀しているところです。

それでこの、棚づくりをしているときに……政治・経済のほうですね。
思い出す……戒めとして思い出すことがあって。
これは私が四軒勤めてきた本屋のうちの、二軒目の本屋であったことです。
そこの本屋さんていうのは、ビジネス街の路面店で、主なお客さん層っていうのは周りの会社とかビルとかにお勤めされているサラリーマンの男性が多かった。
年齢層で言うと、40代・50代が主じゃないですかね。
でも一応、町の……町のって言ったらあれですけど……もう店がばれそうだな……
北海道で町って言ったら、まぁ札幌市ですよ。
札幌のにぎわっている地区だったので、普通のお客さんもまぁまぁいるんですよね。
混む時間って言ったら昼休みと、会社が終わって帰りに寄ってこう、っていうような夕方、この時間がサラリーマンのお客さんが多いっていう、そういうお店でした。
ここで私はやっぱり『政治・経済』をこのとき担当していたんです。

政治・経済の中にも本当にいろいろあるんですけど、時事問題とか海外の問題とか、そういうのも含んでいました。
で、その中で、ちょうど政治がけっこう……デモとかが流行り始めた頃だったんです。
札幌でそういう動きがあること珍しいんですけど、お店の外をデモ隊が練り歩いていくっていうことがかなりありました。
すごいびっくりな……あれでしたけどね。
そういう動きが活発だった時期で、いろいろ、政治関係の本っていうのも出ていました。

そのときに、私は個人の素直な気持ちとして「戦争してほしくない」っていうのが頑なにあるわけですよ。
そういう教育も受けてきたわけですよね。
なので、どうも『戦争に肯定的に見える本』っていうのを避けがちになっていました。
出版社からおすすめのFAXとか注文書とかはどんどん来るんです。
営業担当さんとかも持ってくるんですけど、あんまり積極的に入れないでいたら、やっぱり戦争に対して否定的な……とか、海外のやり方に対しての意見についても、私の個人の考え方がかなり反映された棚になってしまってたらしいんです。

あるとき、おじいちゃんのお客さんがやってきて、その政治・経済、時事問題の棚を見て、「このお店は左翼なの?」って聞いたんですよ。
私それ、かなり衝撃で、びっくりしちゃって。
自分ではそんなこと思ってないんです。
左翼も右翼もよくわかってないぐらいの感じなので、いまだにね。
で、店長が横で一緒に棚整理をしてたので、「いえいえ、うちはリベラルですよ」って言ったんです。
私リベラルの意味もよくわかってないくらいです。
すみませんね、こんなのが政治・経済を担当してしまっている。
勉強が必要ですが。

このやりとりがもう、今も本当に忘れられなくって。
自分に対する戒めなんですけど。

世の中の常識で照らすとどうかとか、いろんな正義に照らすとどうかとか、戦争がいいことか悪いことかとか、そういうのはまったく関係なく、私個人がどう思っているかも関係なく。
お客さんに対して、本は、本屋の棚っていうのはニュートラルでなくてはいけないっていうのを、このときにすっごい思い知ったんですよね。

それが、私から見たときに、悪を増長するような内容の本である、と思われたとしても、置けるなら置いた方がいいんです。
お客さんが本を選びに来たときに、『私というフィルターを通してすでに編集された本棚』をお客さんが見ることになるのでは、本当に選びたい本を選ぶ前に偏ったものを見せられてることになるわけですよね。
これは、本屋がやっちゃいけないことなんだ、っていうことをそのとき学びました。

だから、自分では置きたくないような本も置かなければいけないときっていうのがあるんです。

ヘイト本とか、嫌ですよ。
犯罪者がお金を稼ぐために、保釈金とか稼ぐために出版するような手記とか置きたくないですよ。
会社の通達で置かなくていいって言われたらほっとしますけど。
でも、それを含めて、あらゆる選択肢が選べる状態になってなきゃいけないんだっていうことを、そのとき学びました。
棚づくりが難しいなっていうのが、肌で感じたのはその出来事です。
自分の好きな本だけ置いてちゃいけないし、嫌いな本も憎らしい本も、世の中のすべてから嫌われるであろう本も、選択肢のひとつなら平等に並べなきゃいけないんです。

いま、その難しさも一緒に痛感して、また政治・経済の棚を担当しています。
そんな、本日のもの思いでした。

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