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サイロ化の誘惑に立ち向かうということ

サイロをつくるニンゲン


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サイロ化を防ごう
これはあらゆる組織において、何年も前から警鐘が鳴らされ続けていたことです。

セクショナリズムが蔓延し、情報連携が滞り、硬直していて柔軟性がない組織

誰しもが大企業病と言って嫌い、さまざまなプロセスやツールがこの課題に立ち向かってきました。

「情報の流れを見える化して、組織間のコラボレーションを促進して、サイロ化を防ぐ・・・」

というような常套句は何年も前から、コンサルタントやITベンターが繰り返し使い続けています。

では、この問題が解決されたかというとどうでしょうか。

近年では、Spotifyの事例が想起されます。

Squad、Guild、Chapter・・先進的でクールな名前がつけられたSpotifyモデルは、テック企業のアジャイリストに注目されましたが、サイロ化の力学には打ち勝てなかったようにみえます

ソニーもサイロ化の代名詞として有名です。
CEOハワード•ストリンガー氏は就任当初からサイロ化を危惧し、奮闘してきました。
しかし、結局それを解決することはできなかったと退任の際に振り返っています。

 集団には恒常性バイアスや自己防衛本能が働くように自然とサイロ化に向かうような特性があります。

見知った心地よい状態の安定を求め、変化を避け、あるいは異物に拒否反応を示すようになってしまうのです。

さらに、最近のリモートワークはサイロ化をより促す効果があることを示すリサーチ結果もでています。

わたしも経歴上、さまざまな規模、業態の組織課題に向き合ってきましたが、ほとんど全ての企業でこのサイロ化の問題は存在していました。
組織が大きく成熟するほどにそれは起こりやすくなります。

歴史や私のこれまでの経験から私たちがどのようなことができるのかを考えていきたいと思います。

サイロ化しやすい組織の特徴


まず、サイロ化しやすい組織の特徴をまとめてみます

・専門性や業務機能によって役割が定義されている
・優秀で自ら掲げた目標を達成している
・自己組織化され外部の支援を必要としない
・他のチームと競いリソースを取り合う都合がある
・リーダーが組織内で評価されている
・メンバーが固定化され出入りが少ない
・メンバーの経験値によって実績を生み出している
・チームまたはそこでの業務への愛が強い

普段私たちが目指そうとしている、成熟し安定的な組織の特徴と一致していませんか?

集団にとって、外部からの干渉や影響を受けず自らが自らを管理し、意思決定を行うというのは効率がよいものです
また、いわゆる自決権の追求というものは生来の本能的な欲求なのかもしれません。

有史以来繰り返される、あらゆる紛争や戦争も根底にあるのはアイデンティ、自決権獲得、または自由と安定への希求です

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「自分のチームは自走していて、自己完結できていて安定している」と自信に満ちている時こそ、サイロ化していないか注意して省みる必要があります

〇〇部の連中はわかっていない

おれたちのプロジェクトにこそ投資をするべき

こんな声は聞こえてきませんか

それちょっと危ない予兆かもしれません

SONYとApple

かつて、ウォークマンで一躍世界的なブランドになったソニーは、その絶頂期の1999年に次世代の携帯型音楽プレーヤーを同時に2つ発表しました

メモリースティックウォークマン
VAIOミュージッククリップ


これは2つの部門がそれぞれ開発した互換性のないものでした。

後に携帯音楽プレーヤーの市場はAppleに奪われてしまうのですが、当時のSONYとAppleにどのような違いがあったのでしょうか。
この分析は、「サイロ・エフェクト」

で詳細に記述されていますが、これを要約してみます

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カンパニーそれぞれが、責任を果たすことを重視して自分たちの立場と縄張りを主張しあうライバル同士になってしまったSONYと、強力なトップダウンによって社内の枠を超えさせるだけでなく、音楽業界の収益スキームまで変えるプラットフォームをつくったAppleというコントラストが見えてきます。

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SONYもサイロ化のリスクに関心がなかったわけではありません
ストリンガー氏はあらゆる手段を講じましたが、強固なサイロの壁は打ち破れませんでした。
(組織間の協調を謳いながら、大規模なリストラを断行したことが反発を招いたという評価もあります)

問題を認識していても、解決が難しいのがサイロ化の恐ろしいところです。

どうサイロ化と向き合うのか

ではサイロが組織にとって大きな問題になってしまうことを防ぐにはどうすればいいのか

前述したように、サイロは経年で培われた安定的な環境が習慣となることでその縄張り意識を育んでいきます

よって意図的に変化を促したり、サイロの外を意識せざるを得ない仕組みを取り入れることが有効です


ひとをサイロの外へ出す

ほうっておくとひとはそのサイロの中に籠りがちになります。

対応策としてまず考えられるのは、定期的なジョブローテーションで人を入れ替えることです。

混乱も発生しますが半ば強制的に、組織や考え方の硬直化を防ぐことができます。

また、物理的には職場環境をデザインすることでも別の組織の人間と交流する機会を自然に生みだすことができるようになります。
(リモートワーク環境化ではこれは難しいですが)

個人としては、所属組織とは別のインフォーマルなコミュニティに参加することで、組織の利害や制約を受けずに、視野を拡げたり別の組織のメンバーと友好的な関係を育むことに役立ちます。

帰属意識のレイヤをあげる

社内の組織間がライバル同士になってしまうことを防ぐためには、帰属意識のレイヤをあげることが重要です。

映画などでも、宇宙人に侵略されると、国家間が連帯して地球人として対処に当たりますがそれと同じです。

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帰属意識のレイヤを上げるためには、一度チームの目標設定の抽象度をあげ、改めてその存在意義や会社全体、ひいては社会に対しての提供価値を考えると良いです。

例えば「今月中に幾ら売る」と言う目標が、会社や顧客、社会のためにどう作用するのか?と言うように。

ミッションやビジョンと言われるようなものは、経営層が考えて一方的に発信するようなものではありません。

組織のメンバーそれぞれが、時に立ち止まって自らを見つめ直すことで、思考の硬直化や視野狭窄のリスクを抑える作用があるものだと思います。

評価・報酬の制度をかえる

実際、サイロの境界を堅持していた方が、社内のライバルに打ち勝った方が得をする。と言う状態では、サイロ化の悪影響を抑えることはできません。

これまでの枠組みを破壊して、社内に変革をもたらそうと言う人間が強い反発を受けるものです。
具体的なインセンティブがつくような制度設計がなければ、誰もがサイロの中に閉じこもってしまうでしょう。

社内で競争原理や信賞必罰が過ぎる評価制度設計になっていないか見直し、組織改革や、管掌組織に囚われない活動を奨励する制度が必要になります。

組織の分類をかえる

これは、サイロ化の対策としては最も強力な方法ですが、サイロを構成するそもそもの組織の分類を見直すと言うものです。

例えば企画、営業、開発、運用と言うように専門性やサービスのライフサイクルで組織を分類するのではなく、顧客へ提供する価値や、顧客セグメントに対して分類するよう組織構成を見直すと言うものです。

硬直化し、連携のよくない組織がよく起こす悪癖として「たらい回し」と言うものがあります。

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これは、ひとりの顧客の相談に対し回答するために必要な情報が分散してしまっていて誰も責任を持って回答することができない時に発生します。

とかく企業の組織構成は、管理のしやすさなど社内の都合によって分類されてしまう傾向があります。

最終的に価値提供をしている顧客にとってその分類は適切になっているのか?

社内の都合によって発生するコストを顧客に押し付けていないのか?

実際に組織構成を変革することはできなくても、このように視点を切り替えて現状を疑うと言うことは、サイロの境界を乗り越える上では重要なポイントです。

まとめ

・大きな組織ではサイロ化は避けられない。サイロ化を防ぐのではなく、サイロによる悪影響を抑えるようにすること

・サイロの魅力は強力、サイロの外へ出ることにインセンティブをつける仕組みが必要

・視点を切り替えて自組織を見直し、サイロの境界の柔軟性をセルフチェックすること

サイロ化への対策は、終わりがありません。

人間の心理や認知能力の制約のため、大規模な組織では避けられない副反応のようなものです。

サイロ化を大企業病と揶揄し、忌み嫌う時にも自らがそれを社内の誰かのせいにして、そのサイロの境界を固めてるようなことをしていないか。

一度サイロの外に出てみないと、気づきにくいことなのかもしれません。


おしまい


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