わんわんわんこそば岩手

なまはげからもらった藁のちゃんちゃんこ(?)を纏い、新幹線に揺られていた。次は岩手だ。

よし、今日こそ観光らしい観光をするぞー。

鷹ノ巣駅に降り立ちまず目に入ったのはギャグかというくらい大きな太鼓。バチカンくらいはある

まあ太鼓を叩いてもおそらく「お〜」以上の感想はでないのでここはスルーしよう。なんかないかと辺りを見回すと、『めんそーれ沖縄』みたいなノリののぼりがあるではないか。

『おでんせ!岩手といえば、spa wildcat』

スパか!いいなあ。案内のお姉さんらしき方に声をかけてみるとしよう。

「あのすみませんwildcatの…?」
「左様でございます。お客様素敵なお召し物ですね。どちらから?」
「えっと東京の方から」
「そうだと思いました。都会はやっぱりファッションも最先端〜〜〜!」

お姉さんは大袈裟に目を開き、第一関節だけで音を鳴らす気が毛ほどもない拍手をした。いやさすがに無理があるでしょう。藁だよ藁。都民はみんなパリコレのそれどないなっとんねんみたいな服を着てると思っているのか。

「いやこれは友だちのなまはげから貰って…」
「えー!さすが都会、交友関係もグローバルぅ」

お姉さん、ガンバレルーヤよしこさんが小雪さんに見える程度には都会フィルターかかってるな。グローバルて。なまはげは秋田、海外どころかめちゃめちゃ隣県よ。まあいい、本題に入ろう。

「あのスパの内容って…」
「こちらですね、何段階かにわけてこだわりのクリームや塩を念入りに塗りこんでいくタイプのスパとなっておりまして、観光客の方にとっても人気なんですよ」

ん?なんか、気持ちよさそうだけどなんかうっっすらひっかかるぞ?

「ちなみにお値段は…?」
「なんとですね、町おこしの一環としてどなたでも無料なんです!当店少し注文は多いのですが、その分顧客満足度も高いんですよ。」

あーーーー、なるほどな。もう注文多いとか言っちゃったじゃん。

「それって最後私食べられるやつですかね?」
「チッ ちょっと仰る意味がわからないですね〜。ご遠慮なさらず是非〜」

この人舌打ちしたな?なんだよwildcatって山猫軒かよ。レストランだとさすがに怪しまれるからスパにしたのか。騙されるところだった。ありがとう基礎教養。

「今回は遠慮しときますね」
「そんなこと言わずに、ね?」

お姉さんは笑顔を崩すことなく、ものすごい怪力で腕を引っ張る。ひえーこうなったら

「ワンワンワン!」

私は渾身の鳴き真似をした。29にもなって公衆の面前で何をやっているのか。

「ニャー!」

情けない鳴き声をあげて逃げてゆくお姉さんの後ろ姿にはちょろんと可愛らしい尻尾がついていた。鳴き真似でも効くんだ。よかったー

しかしお姉さんが立ち去ったことにより、周囲からは大声で突然犬の鳴き真似をする怪しい藁人間という目で見られてしまった。これはつらい

「わ、ワンワンわんこそば食べたいなー。
 岩手といえばわんこそばー」

さすがに無理があるかと思ったが、「なんだ、わんこそばを食べたいただの観光客か」と言った具合でなんとか受け入れてもらえたようだ。

少し歩くとさすが名産、わんこそばのお店が結構あるもんだ。あっちもこっちもわんこそば、どのお店にしようかな。よし、決めた。
私は一際趣のある料亭に足を踏み入れた。

「いらっしゃい。お客さんわんこそば?」
さすが料亭、藁客にも動じない。

「はい、お願いします」

落ち着きのある空間に、蕎麦を切る規則正しい音だけが響く。トントントン トントントン トントンタッタトントトンタッ ん?なんか職人ノッてきたなと思っていると、照明が落ち代わりにミラーボールが天井からおりてきた。

「はいわんこそばいただきましたァ!」
包丁のリズムに乗って片手に蕎麦、片手にマイクを持ったツンツン頭のチャラ男が登場した。

恭しく膝をついて私に器を持たせる。

「姫、食べて くれるかな?」

言われなくても食べるために来たんだよと思いつつ、チャラ男のウインクを合図に私は蕎麦をかき込んだ。

「なーんで持ってんのっ」(蕎麦)
「なーんで持ってんのっ」(蕎麦)

「「「食べ足りないから持ってんの!」」」

文節ごとにリズムよく入れられる蕎麦。店員さん総動員のコールが響き渡り、視界のすみにはシャンパンタワーならぬわんこそばタワーの頂上から女将が注ぐつゆがきらきらと滴ってゆく。

なんか思ってたのと違いすぎる。まあ楽しいからいいんだけどさ、もっとこう、忍たま乱太郎に出てくる食堂のおばちゃんみたいな人のささやかな応援と共にサーブされるもんなんじゃないの。

違和感を持ちつつ黙々と食べているとガラガラっとドアが開き、可愛らしい女性のお客さんがやってきた。お、あの人もわんこそばかな。一方的に仲間意識を感じる私とは裏腹に、何故かその人はこちらを睨みつけ、イライラした口調で「いつもの」と店員さんに告げた。ははーん、一見さんお断りタイプ古参だな?

飛び交うコール、無限に注がれる蕎麦、火花を散らしながら無言で食べ進める私と彼女。「俺の胃袋は宇宙だ!」と言いたくなったが残念、私の胃袋は琵琶湖程度だった。もう入らない。

しばらくして彼女も食べ終わると、私と彼女にマイクが渡された。なになに?と戸惑う私をよそに彼女は足を組みマイクを構える。

「藁とか着て目立とうとしてんのか知んないけどぉ、100もいかない雑魚は黙って富士そばでも食ってろよいちょー」

ああ!これ明日カノで見たやつだ!
マイクでなんかこう、嫌なこと言うやつだ!!

え、何言おう。困ったな、ホストクラブならともかくここは蕎麦屋。推しもいなけりゃ被りという概念もなく、彼女に微塵の敵意もない。

「私は馬鹿にしてもいいけどこの藁は友だちから貰った防寒具なんで馬鹿にしないでくださいよいちょ」

ちょっと応戦してみたが全然うまいこと言えなかった。人に喧嘩売るのって難しい。

「…それはごめん、よいちょ」

良い子〜〜〜!!!!

「いいよいちょ」

その後しばらく語尾によいちょをつけながら普通に談笑し、最後はお互い「お蕎麦おいしかったね〜よいちょ〜」と笑い合って彼女は去っていった。


あー美味しかったし楽しかった。


「お会計40万デース!」
価格もしっかりホストクラブなのね、よいちょ。




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