ゼリーフライ埼玉

久しぶりの旅行記だよ!前回↓

ずっとリーダーズと一緒にいたかったが忙しいようなので別れ、私は次を目指した。

埼玉か。埼玉、なにがあったっけ…?
記憶を探っているうちにもう到着。

道ゆく人も標準語だし、もうほぼ東京だな。八王子より東京に近いもんな。

私は通りすがりのマダムに声をかけた。

「すみません、埼玉でおすすめのスポットとかってありますか?」

「あら観光?それなら氷川神社「神社以外で、お願いします」
食い気味な私にちょっと引いているマダム。ごめんなさい、もう神はこりごりなもので。

「じゃあ、祭の湯「温泉もちょっと…すみません」
こいつ観光のくせに地雷多過ぎないかという顔をしている。ごめん、言いたいことはわかるよマダム。色々あるのよ色々…

「うーん、パッとは思いつかないわねぇ。あなたどちらからいらしたの?」
「東京です」
答えた瞬間マダムはあからさまに眉間に皺を寄せた。
「東京。埼玉にはあいにく都民様にご満足いただけるような観光地がなくてねぇ、ごめんなさいねぇ」
「え?あ、いやそんな」
「ねーぇ皆さん、ありがたーいことに埼玉のど田舎見たさに都民様がいらしたわよ」

マダムはクソデカボイスで聴衆を集める。
なんだなんだ、私が何をしたって言うんだ?

「東京だって?まあ、どうりで」
「都民様に埼玉は退屈よねぇ」
「こんなボロきれ着てねぇ、お恥ずかしいわ」

気付けばすっかり囲まれていて、埼玉県民は口々に自虐しながらじりじりとにじり寄ってくる。

「す、すみませんでした!」

なにに謝っているかもわからないがとりあえず謝罪し、半ば強引に輪を潜り抜ける。

「おい!都民が逃げたぞ!」
「2度と面見せんじゃねぇ!」

半泣きで駆けている途中、映画館が目に入った。
一枚だけビリっと破かれたポスターに「東京都民を許すな!」の殴り書き。それを見てようやく腑に落ちた。

「翔んで埼玉だ…」

どうやら埼玉県民は翔んで埼玉を実話だと思っているらしい。そりゃ恨むわな。

とりあえず東京出身ということは隠しておいた方がよさそうだ。

トボトボと歩いていると衝撃的な看板が目に入った。

「ゼリーフライ…?」ゼリーは揚げたらジュースに戻っちゃうでしょうが?!どういうことだと思いながら好奇心に負け注文する。
「ゼリーフライひとつお願いします」
「あいよ」

店内から無愛想な返事が聞こえる。おそらくみんなに対してこうなんだろうが、「もしかして都民と気付かれた…?」という疑念で心臓はバクバクと音をたてる。

大丈夫、ばれてないばれてない。
東京に住んでいるだけでこんなにも後ろめたい気持ちになる日が来るとは思わなかった。

外に置いてあった椅子に座って待っていると、「あいよ、500円」と手だけがにゅっと伸びてきた。500円を渡すと引き換えに小判型の茶色い塊が渡された。ゼリーにしては平べったいな。

とりあえず一口。あれ、全然ゼリーじゃない。
衣なしコロッケみたいな。甘いものの口で頬張ったので脳みそが一瞬混乱したが、落ち着いてもう一口食べるとジャガイモがサクッとしっとり、ネギがアクセントになって美味しい。

「おいしいです!ゼリーじゃないんですね」
嬉しくなって店員さんに話しかけると「ゼリーを揚げるわけないだろ」とめんどくさそうな回答が返ってきた。
「いやあ、初めて食べました。東京には売ってないから。…あ」気付いたときにはもう手遅れ。私は盛大に墓穴を掘った。

「お前、東京もんか?」
「あ、いえ、あのー東京?みたいでそうじゃない?と言いますか、ほぼ神奈川です!八王子なんで!」しどろもどろに苦しい言い訳をする。

「そんな慌てんでええ、興味ない。わしも余所もんじゃ」

よ、よかった〜〜〜〜!
安心して腰が抜け、そのままへたへたと椅子に座り込んだ。

「どちらのご出身なんですか?」
「あ?」
「あ、いや言いたくなかったら全然、全然大丈夫なんですけど」
油断し過ぎた。訳アリタイプか。

「…だ」
「へ?」
「縺九@繧画ヱ星だ!冥王星の近所!」

すこし怒ったように返す店主。そう言えばさっきから手しか見えていない。

「これ、なんでゼリーフライって言うか知ってるか?これはな…」


気付いたときには長い長い二本の手が、私を逃すまいと絡まりついており、暗い店内からは金色の三つの目がギラギラとこちらを伺っていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?