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痴漢

 満員電車で起こった痴漢って、相当にあからさまなものじゃなければ声をあげることが難しいよな、と改めてきょう思った。

 総武線快速の車内。朝は通勤ラッシュ。おじさんもお姉さんもお子さんも、みんながギュウギュウに詰め込まれた空間。ぼくの右側には身長165センチほどのおじさんがカバンを大事そうに抱えている。

 彼のカバンの前には、女性のお尻があった。電車の揺れでたびたびぶつかる双方。女性がそのたびに振り返って、不審な目を送る。そしてそのたびに、周囲もおじさんに不審な目を送る。だがしかし、カバンを抱えるおじさんの腕からは、なんとしてでも痴漢と思われまいとするホールドが垣間見れた。それを見てぼくは、この人やってない、と信じることにした。

 痴漢をすることは簡単かもしれない。だけどそれと同じくらいに、痴漢と思い込むことも簡単だ。とくに満員電車という空間では、人が自発的ではない行動、すなわち不可抗力でなんらかを起こしてしまうことはある。

 痴漢を擁護する気はさらさらないが、誰かの不可抗力を痴漢だと断定できるほどの観察眼は持ち合わせていない。

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