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2014.10.20 / ようこそわたしへ

冬に入る前の、あたたかさが残るような寒さ。
大好きな季節が近づいてくる、ツンとした風の冷たさ。
どこか寂しそうで、色で言うと濃い紺のような…

なんて、空を見上げながらそんな事を思っていた。
時間はAM 0:42。
日曜日の夜だからかもう街には時折、車のエンジン音しかしない。


−なんでこんな所に突っ立ってるんだっけ?


もう、何度その質問を自分へ投げかけているのか。
少し寒い日は、耳当てをして厚手のパーカーで出かけるのがお気に入り。
それでフードをかぶるのが好き。
どうでもいい音も、少ししか入ってこない この感覚も気に入ってる。
道路の真ん中に立っている。もうかれこれ、何十分も。

今日は何を食べたっけな。
携帯で、政治家が辞任するっていうニュースを見たっけな、
きょうこは、明日から旅行に行くって言ってたな。
この間借りた映画、期限いつまでだったっけなぁ。

あれ、なんでこんな所に突っ立っているんだっけ?
ああ、そうか
振られたんだ。

失恋したんだった。


道路に居るのもそろそろ“飽きて”きたから、近くの公園へ行こう。
長い長い坂を上って、何段もの階段を上って、上へ上へいく あの坂。

あのまま空に近づけるんじゃないかって思うほどの、長い長い坂。

そういえば、なんかの為にパーカーのポケットに入れて持って来たスニッカーズでも食べようかな。
冬の寒い時に食べるチョコレートって、なんでこんなに美味しいんだろ。
固さと小さい幸せを噛みしめながら、まだまだ続く階段を上る。

−きょうは どんな夜景が見えるかな。

何かがあると、何度もここへ来ている気がするけど
それが“なんのとき”だったかは、詳しく覚えていない。
大事な時だった気もするし、そうでない何気ない時に来たような日も。

誰とも話さずのぼる階段は、ぜーぜーしなくて のぼりやすいや。
そろそろ着く時だって、息を荒げて 恥ずかしい思いもしなくていいし。

「ゴーール」

耳当てしてる自分の耳には届かない程の声で、一人でつぶやいた。

全く明かりが無く、自分の足元さえ 薄くしか見えない。
でも、恐怖感はあまり無い。よく来慣れてる 場所だから。

砂利道を進んでいくと、街全体が見渡せる“スポット”にたどり着く。
ただの草っ原で、もちろん誰もいないし、椅子なんてものも無い。

ポケットに入れていた、ぐちゃぐちゃの雑誌の切れ端を出す。
大きな石が無い原っぱの上にのせて、そこに座って夜景を眺める。
それが私のお気に入り。


「信じてたのに!しんじてたから、こうして優しくしてたのに!」
「もう、こっち来ないで!連絡とかしてこないで!」


おしりに敷いた ぐちゃぐちゃの雑誌。
彼に放り投げた、漫画とか、雑誌とか、旅行雑誌とか、とにかく目についた本。
口角を上げて笑う彼女らの表紙を見て、またいたたまれない気持ちになった。

なんであんな事言ったんだろ。
いや、

なんであいつも こんな事言うんだろ。
嫌いにさ、なれないじゃん、さ。


「もうさ、俺の事 嫌いになった..?」
「いいよ、もう 会わないって言うんだったら もう俺のメール、無視してもらってもいいから」
「俺のこと、信じて って言いたいけど、でもそんな事言える価値は 俺には無いし、、」


脳裏に浮かぶ、悲しむ彼の顔。
うつむいて、時間が止まったように流れる気怠い空気感。

んだよ、てめぇ 自分に非が無いように言いやがって
最後は私にゆだねるような 答えを求めるような言い方しやがって

なんで彼は、浮気をしたんだろう。
なんで、私の心の変化に 気がついてくれなかったんだろう。
ただ私は、愛して、  欲しかっただけなのに、優しくなりたかっただけなのに。
“だれ”が、“いつ”、彼の心を奪っていったの?
彼が、あなたについていった 惹かれた“何か”ってなんなんですか?
それって、私には無いものなんですか。
それって、それは、、私には生み出されない 才能とか、個性とか、人間性とか そういう難しいやつですか?
普通に会って、お仕事の話とかしてたまには励まし合いながら そういう 普通 のことが、
いつから 普通 じゃなくなって、ズレてしまったんですか…、、


先生の話を聞いてるような体育座りからどうしようもなくなって
うずくまってしまった。
ひざに、暖かい水がどんどん溜まる。

「…ぇえん ぇぇえええん ええぇん」
悲しい気持ちが、声になって 気力もなく口から出て行く。

愛してたのに、とか
色んなこと 沢山したつもりなのに、とか
どうしようもないような事ばかり思い出す。


彼のニカニカ笑う顔
時に甘える あの言葉、仕草
ジーパンから見える 派手なパンツ。
まつげが長くて可愛い寝顔。
わたしを呼ぶ声。求める声。


わたし、全然悪くないのに。なんで泣いてるんだろ。

ポケットにしまった、残りのスニッカーズを口に運ぶ。
口のなかで大きなキャラメルが歯にくっつく。
ポケットの中で あたたまったからか。
ベロで器用にキャラメルを外しながら、涙がツーッと頬をつたった。
涙が唇にあたって、ちょっとしょっぱい。

「リキュールが入って、ビターチョコみたいな味…」

そんなお気楽な事を、少しだけ思った。

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