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風と記憶の揺らぎ

「今日もそろそろ終わりですよ」と、どのチャンネルも天気予報を伝える
疲労感はあまりない
また雨か 最近はそう言っても突然晴れたりするしなぁ
そうやって今日を振り返りながら干してあるタオルを取り込んだ時、呼ばれたように頭のてっぺんから静寂が流れた
それは、知ってる風の匂いだった

いま、なにを共有してる?
肌色重ねて火照っているのかしら
自分に言った言葉、だれかにも伝えているの

どうしてまた戻ってくるの?
なんで必要になるの
ろくなこともないし 嫌いな部分ばかりなのに
嫌な事ばっかり思い出すのにそれよりも勝ってあの温かさを思い出すの

記憶は優しいね、そうか相手の味方か

来てもらって美味しいのいただいて
気持ち良いよね
わたしもそうしたいよ

深夜に大爆笑したどうでもいい話、
一人用のお風呂にぎゅうぎゅうになって入った日、
消えてしまいそうな夜の胸ぐらを寝る前に掴んでくれたこと、
朝方になるまでやり続けたゲーム

自分を重ねないでよ

去年の夏、とにかく私は必死だった
自分がどこにいるのか、何をしてるのか、誰のためなのか
美味しいってなに?
楽しいってなに?
自分のためってなに?
休憩ってなに?
健康ってなに?

この時間、いつもクタクタになって部屋に飛び込んでいた
化粧は取れ、余裕のない私を 寝息ではなく「おかえり」が迎えてくれていた
「はい、今日見た悪い景色はこのまま消してしまおうね」
とコンタクトを外し、日々そう思いながらゴミ箱へ捨て
毎日、毎日あっという間に次の日になった


あ、そうか

その時の風の匂いだ


ベランダからふと道路を覗き込むと、帰り道の間もメールを確認する自分の頭上が通り過ぎた

なんか分からないけど、「がんばれ」って想った
はっ、と思った後すぐに「そんながんばらなくていいよ」と口元が動いた

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